真夜中の女の子
真夜中。
本当に真夜中、深夜一時。
あたしがこの前話した女の子、今日はその子に会いに来た。
……何故かクレハセンパイとアイリスさんも着いてきたけど。
「………本当にこんな方法でかかんのかなあ」
「今どきこんなの動物でも引っ掛かりませんよクレハさん」
「ええ?多分大丈夫だよ!」
初めて見た時は話し掛けたら逃げてしまった。
それなら、罠を仕掛けよう!何てセンパイが言い出して用意したのが、ターゲットが罠に引っ掛かったら棒を倒してカゴの中に閉じ込める奴。
因みに餌は黒猫のぬいぐるみ。
あたしの時もだったけど、センパイは時々発想がぶっ飛んでいる気がする。
それに、仮に引っ掛かったとしても余計怖がられるだけだと思うんだけどなあ。
当然、アイリスさんは呆れ顔だ。
……そう言えば、アイリスさんは本当に何で着いてきたんだろう。
「アイリスさん、アイリスさんは何できたんすか?」
「…貴女の目に映らなかったんでしょう?情報が」
「うん、多分一瞬だったから」
「それなら良いのですが、人間じゃない可能性があります。私はクレハさんを守るのが仕事なので」
「あー、成る程…」
そうか、この人は仕事なんだ。
んまあ、ツンデレみたいだし多分ただの口実だろうけど。
本当はセンパイが心配で仕方ないみたいだね。
と、さっきからあの罠にやたら自信満々のセンパイが会話に混ざって来る。
「二人とも声大きいし折角罠を仕掛けたんだから隠れようよ!」
「クレハさんが一番声が大きいですよ」
「うぐぅ…っ!こ、これでも押さえてるんだから…!!」
「あーもー二人とも喧嘩しな…あれ?センパイぬいぐるみなくなってる」
「え!?」
そんな話に夢中になっている間にぬいぐるみが消えてた。
慌てて辺りを見渡すとアイリスさんがあそこですと指をさす。
そこにいたのは人影。
「こ、こ、こらー!!ぬいぐるみ泥棒ー!!!」
センパイが叫ぶと人影は驚いて逃げ出した。
そこをアイリスさんが捕縛魔法で捕まえる。魔法って便利。
足を捕まえられた犯人が思いっきり転んだ所に急いで駆け寄ると、そこにはこの前の女の子がいた。
隣の黒猫に超威嚇されるあたし達。
「あ!センパイこの子だよあたしが言ったの!」
「え、と言うことは…私の罠大成功!?」
「いや、それはないでしょう」
「酷いよアイリスちゃん!」
「いや、今はそんな事言ってる場合じゃねえから!」
いい加減限界が来たのでツッコミを入れる。
それにより捕まえた女の子はびくっとして怯えたけど。
でもこの子も頭に?を沢山浮かべてるし、猫はまだ威嚇してるし、早く本題に入りたい。
「えっと…あたしら別にあなたに危害を加えたりする訳じゃないんだ」
「そう、そうなの!私お友達になりたいの!」
「センパイ口挟むのもうちょっと待って。だから、あのー…怖がらないで欲しいかなって」
「……………………うん、大丈夫。この人達、悪い人じゃないよ」
女の子は少し考える素振りをした後、猫を宥めた。
まだ警戒はされているけど、威嚇が止まっただけでもまあ良し。
どうやら話を聞いてはくれるらしい。
「いきなり友達になろうって言うセンパイのお願いはまあ、無理だと思うけどさ。少し話をしてみようよ」
「…………でも僕人間じゃないし…えっと……殺人鬼ってやつだし………」
「に、人間じゃないのって関係あるの?つか殺人鬼って何!?」
「関係ありませんよ。じゃあ私はどうなるんですか…あと、彼女の場合の殺人鬼は種族名ですね」
そ、そんな種族がいたんだ。
アイリスさんが言うには、人間を憎んでいるのが殆どだからそんな種族名になったのではないか、って事らしい。
この子みたいに人間に殺意がない子は珍しいんだとか何とか。
でも、さっきから断る理由を探そうと悩んでいるしやっぱり好きではないのかなあ…あと、多分怖いんだよね。人が。
「じ、じゃあ、さ、気が向いたらで良いから。取り敢えず名前だけでも教えて欲しいな?あたしは光咲って言うんだ。こっちの元気っぽいのはクレハセンパイで、こっちの羽根の人はアイリスさん」
「よろしくお願いします」
「よろしくね!私の事はクレハで良いからね!あなたの名前は?」
「名前?…………葵」
女の子はとても小さな声で名前を言った。
クレハセンパイが嬉しさのあまり抱きつこうとして拒否されてたけど、取り敢えず進展だよね。
……自分から仲良くしようとした事なかったから、あたしもちょっとドキドキしてたり。
「よっし、よろしく葵さん!」
その後、話を聞いたら住む所がないらしいので、あたしの家に住む様に勧めてみた。
来てくれるかな?…不安半分期待半分。
だけど、きっと仲良くなれる。
あたしそれだけは自信あるな。
(………たまになら、話聞く)(良いよ良いよ、ゆっくり近付こっ!)(わ、私も早く仲良くなりたいなあ)
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