殺人鬼達の昔話
 


「葵がいない?」

「そうなの…具合が悪いのにあの子ったらどこ行っちゃったのかしら…見付けたら連れて帰ってきてくれる?私心配で」

「はあ…」


学校をサボった帰り、先日から葵が風邪気味だと聞いていたので家に寄れば彼女の母親からそう告げられた。
その心配だと言う娘に暴力を振るっているのも、まともに食事を与えないのも、昔故意に置き去りにして3日程行方不明にさせたのも知っているので、よくもまあそんな言葉を出せるなと思いながらも適当に返事をする。
とにかく、本人がいないのならこんな腐った奴がいる場所に用はない。
ただの風邪とは言え心配で、足早にその場を離れた。

少し歩くと鬱蒼とした森があり、敢えて遊歩道を外れ先へ進む。
奥にはかなり昔のものだろう、ろくな整備もされず荒れた細い道があり、その道を真っ直ぐ進むと廃神社があった。
足場の悪い道のりは少々面倒なものだが、神社の敷地内自体は陽当たりが良く、人も来ないのでアイツのお気に入り。

神社へ着くと予想通り、拝殿の裏で蹲る葵を見付けた。
近付くと警戒する様に体を震わせたが、俺の姿を見ると安堵の表情を見せる。
手を差し出せば、葵はその手を取り指で文字を書き始めた。
これは、生まれつき喋れない彼女との会話方法。


「また追い出されたのか」

『お母さんが、病原菌は出ていけって』

「この後どこへ行くつもりだったんだ」

『5時頃には家に帰る。お母さんが怒るから』


自分から外へ放り出しておきながら、帰って来なければ怒るとは何て身勝手なのだろうか。
そうだ、昔もあの母親はそうやって自分で置き去りにしておいて、夜に「娘がいない!」と泣いて大騒ぎしていた。
子供想いの苦労している母親でも演じたいのだろうか。
葵の体調は心配だが、そんな家へ素直に帰すのは嫌だった。
それに、帰らなければどうせ昔の様に探すのだろう。


「あの親なら時間通りに帰ったところで怒る。なら帰らなくて良い。日が落ちて来る頃に起こしてやるから少し寝ろ」

『…うん』


行き先も決めていないけれど、見つかるまで彼女を連れてどこかへ行ってみようか。
とにかく、先ずはゆっくり休める所を探したい。
葵は少しのやり取りの後、俺の膝に頭を乗せると直ぐに寝てしまった。
体調が悪いのもあるが、かなり疲れていたのかも知れない。
上着を掛け頭を撫でてやれば、幸せそうな笑みを浮かべる。
…ああ、寝ているとは言えやっと笑ってくれた

早くこんな街から二人で抜け出せたら、ずっと一緒にいれるならどんなに幸せだろうか。
葵にとっては俺は兄なのかも知れない。
それでも、兄のままでも良いから一生を懸けて守っていきたいんだ。



――――――――――――

死後(ディト君)は自分の枷を取ったからもう兄ではいられないのですね。
椿はこのやり取りも見ていたのかもしれない。それでも彼は今二人に手を差し伸べたりはしない。



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