椿2
近頃、葵が何か悩んでいる気がする。
特定の場所に近付くと急にキョロキョロと辺りを見たり、部屋中の引き出しや鞄の中を漁ったり。
まるで何かを探している様。
流石に気になったので聞いてみたら、いつも大切にしていた懐中時計がない、と彼女は答えた。
どこぞの時計マニアに再会した時、戦闘の衝撃で文字盤のガラスが割れた事とチェーンが切れてしまった所までは覚えているけれど、生き返った時にはもう手元から消えていたとか。
……それって確実にソイツが持ってるんじゃないかな。
「透君がくれた大切なものなのになくしちゃった…」
「いや、絶対そのトオルクンが持ってるよネ。あげた事もあっちは覚えてないんだし、キミがそれをどれだけ大切にしているかも知らない」
「うーん…」
まあ、ともかく葵が落ち込んでるのは見たくないから取り戻しに行こう。
アレ関連なのはとても、とても気に食わないけど仕方ないねー。
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取り戻すとは言ったもののボクはヤツの店を知らず、本人を探してフラフラと徘徊していると、覚えのあるまあ何とも煙草臭いニオイ。
それに気付いて振り返ったと同時に、何かを放り投げられたので危うく落としそうになりながらもキャッチ。
何だオマエ喧嘩売ってんのか。
何かと思い見てみると、それは葵がなくした時計であった。
壊れたと言っていた筈のガラスもチェーンも綺麗に修復されている。
電池も入れ直されたらしく、手の中でチクタクと規則正しく時を刻んでいた。
て言うか、やっぱ持ってたのオマエかよ。
「全部やっといた。今後メンテナンスぐらいはちゃんとするよう言っとけ」
「…修理代とか出さないよボク」
「これでも儲かってるのでー、クソ猫からもらう程落ちちゃいない。…あいつ時計大事にしてるから、暇ついでに直しただけだよ」
何だ、殺し合うぐらいは覚悟してたのに。拍子抜け。
言うだけ言って去ろうとするので中指を立てるもスルーされた。
うわー、腹立つ。
っていうか壊したのオマエだろ。
…まあ良いか、早く帰って葵に渡してあげよう。
凄い喜ぶんだろうなァ。
笑顔の理由がボクじゃないのは嫌だけど、葵が嬉しいなら何でも良いや。
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