アイリス3
 


町外れにある白い建物。
この建物では夜な夜な人体実験が行われている、化け物が住み着いていると言った様な噂がある。
まあ、こう言ったものにはよくある話だ。
何せ周囲は鬱蒼とした森で人通りも殆どない場所にあるのだから、騒ぎ立てる者がいてもおかしくない。
何から何まで「ありがちなもの」だ。

…さて、そんな噂のある場所に今アイリスはいた。
勿論好き好んで来ている訳ではなく、光咲が珍しくアイリスに用事があると言うので着いてきただけ。
何故自分をここに連れてきたのかは不明だが、こう言った雰囲気は少々苦手なのもあり、アイリスは今すぐにでも帰りたかった。
一体どういう事だと光咲を睨み付けても、彼女は頑なに視線を合わせない。


「帰っても良いですか」

「いや、あの、すいません、まだ駄目っす」

「そもそも何故私を連れてきたのですか?肝試しなら他に相手がいるでしょう」

「んんん、肝試しでもなくてアイリスさんに会いたいって人がああ…」

「はあ?」


ハッキリと答えない光咲の様子に、無理矢理にでも帰ろうかとアイリスが思ったその時突然入口のドアが開いた。
どうやら入れと言う事らしい。
正直かなり遠慮したいが、光咲に行こうと腕を引っ張られるので進むしかない様だ。



諦めて進んだ先には白衣を着た少女がおり、鼻唄混じりでテーブルに茶菓子を広げていた。
ちょこちょこと動き周り準備をする姿は思わず脱力してしまう程だった。
外の薄暗く不気味な雰囲気とは違い、やたらとメルヘンな光景である。
ここは本当に心霊スポットだの呪いの研究所だの言われている施設の中なのだろうか。


「おーいゼル様ー」

「あ!やあ、桜井さんご苦労様。さあさあ、座って座って」

光咲に「ゼル様」と呼ばれた少女は、アイリスを見るとぱあっと言いそうな程の笑顔を浮かべ椅子へ座るよう促す。
どうやら敵意はない様なので大人しく従うと、目の前に紅茶の入ったティーカップが置かれた。
しかし少女、ゼルの目的は読めず、状況もさっぱり分からなくなったアイリスはただただ首を捻るしかない。
向かいに座ったらしい光咲を見ると、苦笑を浮かべつつ小声で謝罪するのみ。
…そして、この状況を生み出した人物は用意を終わらせると心から楽しいと言った様子で、アイリスに声をかける。


「初めまして。ようこそアイリスさん。さ、お茶会をしよう!」

「……はあ」


まだ初会話なのだが、既に様々な気力を持っていかれてしまったアイリスはこれに従うしかなかった。
普段あんなにも騒がしいと思えるクレハの声が心底恋しい。
早く帰れるようにと願いつつ、目の前にある紅茶を飲む。
今はこの暖かさだけが唯一の癒しだった。



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