椿1
 


嘘、と言うか隠し事が嫌いだ。
あの子はボクに嘘を吐かない、隠し事もない。
でもボクはあの子に秘密がある。
これを言った時、許してくれるのかなって、嫌われたらどうしようって怖くて。
人間相手ならどうでも良いけど、あの子に隠し事をするのは嫌いで…でも話したらボクを受け入れてくれるのかな。
全部を知っても、ボクに笑ってくれるかなあ。


「あー……ネー葵ちゃんさー。もしもの話なんだけど」

「うん」

「もしボクがキミの事昔から知っていて、死ぬ事も知っていたのに助けてなかったら怒る?」


いきなりの質問に何で?と呟きつつも真剣な表情でうーんと首を傾げて考え始めた。
そんな姿を見つめて、じっと答えを待つ。
今のもしもの話…本当だけどね。
だっていきなり本当だって打ち明けて拒絶されたら怖いし。
ボクっていつの間にこんな怖がりになったのか…ああ、何か心臓痛いなァ。
そんな事を考えていると、考えが纏まったのか葵が口を開く


「別に怒らないかな」

「え…なんで?」

「だってね、椿がどうしてそんな事するのかなって考えてみたら、それはきっと僕とずっと一緒にいたいって思ってくれてるからだと思って…えっとほら、人間だと一緒にいれないし」

「うん」

「もし初めの内に知っていたら怒っていたかも知れないけど、でも人間だったら椿に会えなかったと思うし…死んじゃったのは助けなかった椿じゃなく、僕が弱いのが悪いし、それに椿は嫌かも知れないけど光咲達に会えた今が楽しいから、怒らないよ」

「…そっかあ、怒らないんだ」


それを聞いてとても心が軽くなった感じがした。
葵は何かを伝えるとか、こう言う事にはきっとまだ慣れてない。
それでも一生懸命伝えてくれた言葉に何だ、不安になる必要はなかったんだと思いとても安心したんだ。
そう言えばキミは人を疑わない馬鹿な子で、だからか知らないけど優しい。
そうだそうだ、そんな事で切れる絆、関係じゃないよねボク達。
少し冷静じゃなかったかも。


「……えっと…もしかして、予想してた答えと違ったとか…?あ!そうだ、そう、椿と一緒にいれるのも嬉しくて」

「ンー、それは分かってるから平気。ネエ葵、実はボク秘密があってね。…今は言えないけど、いつかキミに聞いてほしいんだ。キミに何かを隠すのは嫌だから…話す時が来たら、聞いてくれる?」

「うん、大丈夫。椿のペースで良いよ。待ってるから」

「ありがとう、葵」


うーん、しっかし…あー、ボクの飼い主は本当に可愛いなあ。
へにゃり何て音が聞こえそうな笑顔に癒される、と言うかニヤける。
これで、家に人間がいなければ完璧なのに。
まあ良いや。人間がいても、きっとこの子はずっとボクの元にいてくれるんだろう。
それだけで他の事はどうでも良いんだ。
我ながら単純な頭だねェ、さっきまでの不安はどこへいったんだろうね。


「葵葵、明日はドコに行こう。キミと一緒ならどこまでも行くヨ?」


これから先もずっと、ボクの世界はこれだけで良いから。
本当にどこへ行ったのやら、今は幸せな気持ちでいっぱいだった。



前へ 次へ

[ 40/68 ]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -