葵2
 


光咲に勉強がしたい、と言ってみたら何でか緋桐さんに教えてもらえる事になった。
学校に通う気はないから、ちょうど良いかも。
雨でも降らない限り勉強は河原でやる事が多くて、そんな河原には何故か沢山の物が置いてある。
大きい木製のローテーブル、丸太や切り株みたいな椅子…何か少し可愛い。
他にも、テントやパラソルがある。テントはお昼寝に使える。
それに時々物が増えてるみたいだ。
不思議だなあ…誰が持ってきてるんだろ。


「ぎゃあ女子高生!?」


物の出所について悩んでいると声が聞こえた。貴方は誰?
と言うか、女子高生に何かトラウマでもあるのだろうか。


「お、おじさんまた殴られるの嫌だよ!緋桐君!ちょっと緋桐君 !」

「その子は大人しいから平気ですよおじさん。すみませんね、この前どっかのピンク髪の女子高生に殴られたのが余程ショックだったみたいで」

「全体的に緋桐君のせいだよね!?」


…ああ、光咲の事か。
多分、誤解か何かでやっちゃったのかな。
光咲は優しいけど知らない人には厳しいみたいだし…。
まあ、でも僕にはきっと関係ない。殴るつもりも当然ない。
大体の状況を理解すると、おじさんと呼ばれたその人は人懐っこそうな笑顔を浮かべ話し掛けてきた。


「えっと…取り敢えずおじさんもよくここにいるし、よろしく。君の名前は?」

「…………葵」

「葵ちゃんかあ!よろしく!あ、このテーブルとか用意したの全部おじさんなんだ。感謝しろって訳じゃなく紹介的にね」

「…緋桐さん、ここの数式分からない」

「あ、あれ?」


男の人は少し苦手。あ、嫌いではないよ。
それに、話し掛けられるのは嫌じゃないけど、返し方が分からない。
集中を切りたくないのはあったけど、無視したくてした訳じゃなくて…えっと。
…こう言うのは、心の中で思っていても伝わらない事。


「おじさん、彼女は人見知りが激しいんですよ」

「そうなの?うーん、じゃあビックリさせちゃったかな、慣れてもらえるまでおじさんはあっちで釣りでもしてるよ」


そんな時緋桐さんが珍しく、フォローしてくれた気がする。
でも、ここでそのままにしといたら一生話しかけられないんじゃと言う不安が芽生えた。
……頑張ろう、一言で良いんだ、何か言わなくてはいけない。


「あ…あ、あの………………」

「おじさん、呼んでますよ」

「へ?」

「えっと…その……よ、よろしく…お願いしましゅ……!」


普通の言葉だ。それでも、やっと絞り出した言葉。
声が変に上擦ったし、と言うか噛んだし、恥ずかしくて顔も真っ赤。
おじさんはきょとんとしてるし、ああ、やっぱり話しかけない方が良かったかな…何て後悔する。


「…うん、よろしく!」

「え……?」


俯いてると視界に足が見えた。
そして、嬉しそうな声が聞こえて頭を撫でられる。
…ああ、そっかこれで良いんだ。
良かった、自分から話しかける事が出来た。
仲が良くなった人はともかく、初対面の人には初めてだったから。


「…緋桐さん」

「はい」

「今日は勉強じゃなくて、釣りがしてみたい」

「釣り?へえ……良いですよ。それも成長の一つと言う事で」

「うん、ありがとう」


もっといけるかな、許可をもらったのでおじさんを追いかける。
追いついて、釣りが見てみたい、してみたい事を話すと、また嬉しそうに笑った。



最近思う、殺人鬼になってからの時間は変化が多くてとても早く感じるって。
でも良い事があるし、少しずつ色々な物に興味が湧いてきた。
親の影はまだ怖い、人と話すのもまだ上手くいかないけど、そう言う苦手なものを克服して、沢山学んだらいつか普通の人間みたいになれるのかな。
…もう人間じゃないけど、ちょっと頑張ってみたくなった。



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