清慈2
 


獅子倉 清慈、成績はそれなりに自信がある。
受験のプレッシャーも少なく中三にしては余裕を持っているかも知れない。
まあ、勉強に打ち込む事を逃げ道とした結果だ。
休日はそんな日々のストレスから解放され、のんびり読書等をして過ごしたい。
…普段なら。


――――――――――――


「清慈君ー!こっち!こっちですよお!」

「…帰りたい」


今回は約束があったので、外出する事になった。
が、相手が日々のストレスの元凶、それも6割ぐらい担当している小夜なので今すぐにでも帰りたくて仕方ない。
約束だって、自室の窓を破壊された上に無理矢理取り付けられたものである。
毎日ニヤニヤと笑いながら、ナイフを手に覚束ない足取りでふらふらと歩き回る様な危険人物と、何故一緒に買い物へ行かなければならないのか。
小夜は日によっては比較的マトモな時もあるので、今日がその日だった事が唯一の救いかも知れない。
…まあ、いくらマシになろうと振り回されている事には変わりないが。


「知り合いに見られたら終わりそうだな…」


清慈の気分は、深い深い絶望の中である。
だが、相手はそんな気持ち等お構い無しだ。
分かっていたが、心配や気を使う様子はない。
それどころか、清慈の様子に頬を膨らませ怒っている。


「もう!全然楽しそうな顔してない!普段から本ばっかり読んでるから折角ストレス発散させてあげようと思ったのに!」

「そうか、逆効果だな」


小夜といる時点で、ストレスは減るどころか溜まる一方だ。
先程から胃痛が止まらない気がする。


「…あ、あそこのお店行ってみましょお」

「帰って良いか」

「うわあ、この服可愛いですねえ!」

「話を聞け」


せめて会話ぐらいはしっかりしろと思うが、言っても意味がないので諦める事にした。


「…帰りたい」


…とても憂鬱、口から出る言葉はそればかり。
取り敢えず、近くの椅子に座り休む事にした。
服を見てはしゃいでいる姿をぼんやりと眺め、一人でも良かったんじゃないか、今のうちに帰ってやろうかなんて思いながら、またこの言葉を口に出す。


「帰りたい…」



…清慈のそんな願いがやっと叶うのは、それから数時間経っての事になる。



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