清慈1
 


清慈は思う、休日は素晴らしいものだ。
学校に行かなくて良いからだとか、そんな理由ではなく、幼馴染みに会わなくて済むから。
いつも何かと問題を起こし、今まで必ずと言っても良いほど巻き込まれている。
そんな事を心配する必要のない休日は何て素晴らしいんだ。
さて、こんな良い日には外に出ようとも思うのだが、何となく嫌な予感がして部屋から動けずにいる。
…まあ、外出してばったりと遭遇する可能性は確かにあるので、今日は家でゆっくりしようじゃないか。

しかし、獅子倉 清慈、彼の体質上どこにいようと苦労はやってくるのかも知れない。


――――――――――――


ある時突然ピンポーン!と音が響く。
誰かが訪ねて来た様だ。
だが、清慈は動く事をしない。
…絶対に出ては駄目だ、嫌な予感がする、ドア越しでも分かるこの感じはあいつじゃないかと。
赤ではなく青、一番出会いたくない方。小夜だ。
因みにこれを考えている間も、チャイムは数秒の感覚を置きながら鳴り続けている。
まるでホラーだ。頼むから早くいなくなってくれ。
すると、諦めたのか、ぴたりと音が止んだ


「…………助かった」


音も気配もない、大丈夫、そう思って口から出た言葉。
だが、その直後再びチャイムは鳴り始めた。
今度は何度も連打しているのか、止む事なく鳴り続けている。
更にドアノブまでガチャガチャと言い始めた。
本当にホラーである。


「チッ…やっぱりいるじゃないですかあセージ君。幼馴染みに居留守使うなんて酷いよお」

「帰れ!」


もうそれしか言う事がない。


「…仕方ないなあ」


すると大人しく諦めたのか、足音が遠ざかっていく。
珍しい事もあるものだ。
今度こそ助かった、安堵のため息を吐こうとしたその時、気配を感じて振り返る。


「お、じゃ、ま、しまーす!」

「うわああああ!」


振り向いた先、窓の外には諦めたと思っていた小夜がおり、なんと窓を蹴り破って侵入してきたのだ。
何て事をしてくれるんだこいつは、こんな事なら諦めて出ていった方がマシだったのかも知れない。
部屋に散乱したガラスの破片を見ながら、確かな胃の痛みを感じた。
割った犯人はそんな事興味がないのだろう、にこにこと笑っている。


「ハローセージくん」

「…本当に、帰ってくれませんか……」

「ええ、無理だよお、言われる前にガラス割って入っちゃったもん、あは」

「………」


割る前にも帰れと言った気がするのだが、彼女の耳はそんな叫びを受け入れなかったらしい。
そんな都合の良い体が欲しいものだ。
これ以上物を壊されたら堪らない、残された手は早く用件を聞いて帰ってもらう事である。


「…で、用件は」

「えっとねえ、今度お買い物に行きたいんだあ、セージ君に付き合って欲しいなーなんてえ」

「……それだけか?」

「うん!あは」

「分かった着いていこう。で、本当にそれだけか」

「うん!良かったあ、断られたらその綺麗なお顔に爽やかさと熱血さをプラスする素敵ヘアスタイルにする所だったよお」


恐らく坊主頭の事である。
いつの間にか手にバリカンを握っていたからだ。
冗談じゃない。


「じゃあ、当日は空けておくからそれで」

「お茶が飲みたいなあ」

「おい」


窓ガラスを粉々にしておいて、茶まで要求するとは良い度胸である。
勿論出す訳がないので嫌だと伝えると、ケチだのなんだのと文句をつけてきた。


「んー、セージ君お茶くれないケチだから帰るう。あ、窓直さないと不用心ですよお」

「割ったのはお前だ…」

「え、違うよお初めから割れてたじゃないですかあ!私のせいなんてひどい!まあ、良いやあ…じゃあ約束の日にお願いしますねえ」


何を言っているんだこいつは。
前から言動が不安定ではあったが、最近は記憶力も危ういらしい。
言い返そうと口を開くも、その前に彼女は外へ飛び出す。
驚いて下を覗くが、本人は飛び降りてもぴんぴんとしており、そのまま神社の方へ駆けていった。


「……約束すっぽかしてやろうか」


思うだけでそんな事はしないが。
都合の悪い事を忘れるだけで、自分から出した話はしっかり覚えているだろう。
そんな事をしたら後日どんな目にあうか予想も出来ない。
きっとまた何かが犠牲になるだろう。
そう、窓の方に目を向けながら思った。

…しかし、この状況家族にどう説明すれば良いのだろうか。
理由を考え出すと、また胃が痛みだす。
…本当にそろそろ胃薬が必要かも知れない。
自分の体はいつまでもってくれるか、そんなまるで重病患者の様な気持ちになった。

……いつになったら平和になるのだろう。
割れた窓から見上げた空は、綺麗な夕焼けだった。



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