小夜1
 


人気のない教会。
少し前までは、神に祈る者が多く訪れていた。
だが、今ここに残っているのは神を全く信じていない修道女の小夜と、乱雑に置かれた彼女の私物のみである。


「私に用ですかあ?物好き、ですねえ。あはっ」


そんな場所に、珍しく人が訪れた。
クレハ、何の取り柄もない平凡な人。
ここに訪れた理由は、小夜ともどうにか仲良くなれないかと思ったから。
…本当に物好きと言われても仕方ないのかも知れない。
彼女には一度殺されかけているのに、今会いに来ているのだ。


「…えっと、あのね小夜ちゃん。私、小夜ちゃんと友達になりたくて…あ、お菓子とか持ってきたの!食べる?」

「いりませーん」

「そっか…」

「あ、お菓子はいりますう、いらないのは…アナタ、貴女がいらないんですよお」

「え」


まだ少ししか話をしていないのに、嫌な予感がしたクレハは後退る。
そうだ、いつ襲い掛かって来てもおかしくない。
小夜はニンマリと笑いながら、1歩1歩距離を詰めていく。


「あれあれえ逃げるんですかあ?しつこく話せばあ、私も気分が変わって友達欲しいってなるかも知れないのにい」

「えっと、うん、話そう!だから、その…ナイフをね…?」

「…私、貴女の事思い出したんですけどお…恋ちゃんに気安く近寄るとんでもないゴミクズさんでしたよねえ」


ふっと笑みが消える。
流石にこの状況が危ない事は、クレハにも分かっていた。
逃げないといけない、絶対危険な事になる。


「あの子は私のもの…私だけが味方で私だけが友達で私だけが永遠に愛せて私だけが殺せる可愛い恋ちゃん…きひ」

「あの、でも…恋ちゃんは小夜ちゃんの事心配してたしそれに友達出来たのも嬉しそうで…」

「そう、あの子諦めが悪いのお…だからいつもいつもいつもいつも友達何てものが出来る度に私が助けてあげたのに…また作りやがってさあ………どうせお前も!あいつらみたいに!今みたいに!怖くて逃げ出すんだろ!だったら最初からいないで良いんだよそんなもの!バーカ!!うひひひひ!きゃははははは!!」


広い空間に笑い声が響く。
…彼女は、どうしてあんな風になってしまったのだろう。
昔は優しかった、と恋は言っていた。
自分には理由はきっと分からないのだろうけど、その姿にとても悲しくなる。


「ああ?まーだいたんですかあ、笑ってる間にとっくに逃げてるのかと思った」

「逃げ…たいけど、でも…」


もう少し、彼女と話が出来ないだろうか。
…大丈夫、すぐ後ろは出口。
何かあってもきっと逃げられる。
小夜はクレハの顔をじっと見ると、先程とは違い落ち着いた様子で話し出した。


「貴女頭がイカれてるレベルで本当にお人好しなのかも知れないけどお、私そんなのに付き合ってる暇ないんですよねえ…それとも友達なら手伝ってくれますかあ?一人じゃ掃除しきれなくて、隅の血とかもう落とせなくてえ」

「そ、掃除なら得意だよ!って…え………血?」

「あはっ、この教会何で人がいないのか分かりますかあ?」


人がいない理由。
恐らく、全員が消えたのはまさにこの場所。
そして、一人残る彼女。
消えた理由を知っている。
もし何らかの事件の被害者なら、そんな場所に残る理由はない。


「えーっと、殺した…とか…?」

「あららあ、意外と勘が良いんですねえ。それともただの偶然?ぴんぽーん、だいせいかーい」


恐怖を感じるクレハと違い、小夜は何とも軽い調子で答えた。


「流石に貴女も人殺しと仲良く出来ないでしょお?だから…さっさと帰るか死んで?」

「…っ!お、お邪魔しました…!!」


これ以上はダメだ、慌てて外に飛び出す。
と、同時に顔の真横をナイフが通り抜けた。
少しでもずれていたら間違いなく刺さっていた筈。
振り返ると、奥に戻っていく彼女が見える。
追いかけて来る気はない様だ。


――――――――――――


「…やっぱり、無理なのかな」

教会を飛び出してどれぐらい走ったか、クレハは夕暮れの道をとぼとぼと歩く。
友達になるのは無理でも、せめて姉妹は仲良くして欲しい。
クレハのお節介でしかないのだが、どこか寂しげな恋と、とても正常とは言えない小夜の様子にそんな事を考える。
話に聞いた、昔のように仲良しな姉妹ならどんなに良いだろう。
家路を行きながら、思い浮かべた理想の光景が来る事を願わずにいられなかった。



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