幽霊の話
幽霊と言うものが見えて果たして良い事はあるのだろうか。
見える様になってからの数年、良い事の記憶がない。
専門的な知識がある訳でもないので詳しい事は分からないが、一般的には「この世に未練のある成仏出来なかった存在」が幽霊と言う存在。
その認識の通り、恨めしそうな顔をしてこちらを睨むものや、羨むあまり生きている人間をそちらへ引きずり込もうとする霊が殆どだった。
身近な霊だと…背後でずっと恨み言を呟く存在なんかもいる。
とにかく、幽霊が見えても良い事何てない。
少なくとも俺はそうだ。
ただでさえ空腹に悩まされる毎日を送っていると言うのに、何故自分はこんなものまで見えるのか。
夏特有の特番に影響されて、「すっげー!」と霊能力者に憧れてはしゃぐバカな先輩もいるが、殴らなかっただけ褒めてもらいたいと。
先程も、恨めしいだの何だの呟く随分とベタな霊を見かけた。
「恨めしい…苦しい…痛い…痛い…身体が…」
「…めんどくせえ」
そしてつい目が合ってしまったからか、その存在は自分に着いてきたらしい。
人間だったら不法侵入だ、ふざけるなと思う。
しかし、耳が悪いのか聞く気がないのか、誰かへの恨みを延々と繰り返し呟くだけで反応はしない。
一緒にいたクレハに着いていかなかっただけマシなのだが、すぐ近くでずっと恨みを聞かされるのは流石に頭がおかしくなる。
寝て誤魔化そうと先程から試していたが、雑音の発生源が近すぎて眠れず諦める事にした。
ならばどうすれば良いと悩んでも解決策は出ず、時間だけが過ぎていく。
…そして、眠れる訳がないと思っていた筈なのに段々と意識が遠退いてくる。
この霊は、自分の想像以上に危険な存在なのかも知れない。
危ないと気付いても既に遅く、意識は闇へ落ちていった。
――――――――――――
「なあ、なあ。あんたに何があったかは分からんが、うちの孫をいじめないでくれ。無関係の人間にすがっても、あんたの恨みは晴れんよ」
…随分と変な夢だ。
自分の事を孫と呼ぶ人物が、霊にそんな事を話している。
父が生まれる前に、どこかの国で死んだと聞いたのに。
でも、夢でもこんな事を言ってくれるなら祖父は優しい人物だったのかもしれない。
祖父の言葉で霊が部屋を出ていくのと同時に、遠くから「小鳥遊君」と聞き慣れた声が聞こえた。
「……岡崎だ」
「良かったあ…!呼んでも反応なくて、部屋に入ったら倒れてるから心配したんだよ!」
目を開けば心配そうに顔を覗き込むクレハがいた。
…どうやら霊のせいで気絶していた様だ。
しかし、周囲を見渡しても原因である霊の姿はどこにもいない。
いなくなってくれたなら万々歳だが…はて、どうして彼女はここにいるのだろうか。
「…心配かけたならゴメン。ところで、何でここに?」
「何かね、小鳥遊君の家族って人が「曽良が危ないから来てくれ!」って道を案内してくれて。そしたら本当に倒れてるからもう私ビックリして…」
「…は?」
それは一体誰なんだ。
両親は死んでいるし、出来たとしても俺を助ける為に人を呼びになんて行かないだろう。
付き合いのある親戚だっていない。
一体彼女は、誰に導かれてここへやってきたのだろうか。
「いやあ、お嬢ちゃんを巻き込みたくはなかったんじゃが、儂は幽霊じゃからなあ。間に合った様で良かった」
突然降ってきた声に振り向くと、夢で見た祖父を名乗る人物が安心したと言った表情で笑っていた。
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