動き出す時間(描写注意?)
 


ずっと会いたい人がいた。
けれど、会えないのではと思っていた。
そんな人に会えたら、その人が変わってしまっていたら、どうすれば良いのだろう。

彼は、隣の家に住んでいた。
彼自身も虐待を受けていたのに、私の事を気にかけてくれた兄の様な人。
私が泣いている時は黙って頭を撫でてくれて、食事がなかった日にはこっそり食べ物を持ってきてくれた。
いじめられた時には守ってくれた、不器用だけど優しくて大好きな家族。

けれど、私が高校生になった頃、彼はいなくなってしまった。
「三年間負けるな、必ず迎えに来る」
そんな約束を残して、懐中時計をお守りだと手渡して。
どこへ行ったのか分からない。
本当に帰って来れるのかも分からなかったけど、彼を信じていた。
だから守りたかった、約束を。
いつか再会出来ると信じて、生きていたかった。
それなのに…私は半年も経たずに、喘息の発作で呆気なく死んでしまった。
吸入器を取り上げ私を冷たく見下ろす母親の姿は、今でもよく覚えている。

殺人鬼として蘇った後、今もそれが気になっていた。
実は私の事をずっと見ていたと言う椿に先日聞いてみたけれど、「キミが死んだ後は一度も見てない」と一言だけ。
それでも転生したばかりの時、懐中時計だけは絶対忘れないと持って行った。
誰にも触れられたくないので時が止まってしまった今も電池を替えていない。

…そんな時計が、今日再び時を刻み始めた。
きっと何かあるんだと思って、大雨にも構わず外に飛び出す。
そして、何時間も走り回って私は見つけた。彼を。
…でも、神様はそんな優しい再会は許してくれないらしい。
姿は確かに私のよく知っている彼だったけれど、右目は黒く変わっていて、そして手には肘から先の人間の腕を持っていた。
足下には腕の持ち主であろう、顔も分からない程潰された人間の死体。
腕についていた時計を嬉しそうに眺めていたけれど、視線に気付いたのかゆっくりとこちらを振り向く。
すぐ分かったのは、彼が同じ存在になってしまったと言う事。
躊躇いなく肉塊と言える状態にする程には、人間を憎んでいるんだろうと言う事。
そして…


「記憶を寄越せ」


私は狙われているという事。
左手を振り上げて、武器を作り出す。
戦いたくはないけれど、今の状態じゃ話は出来ないんだと思う。
勝てるとも思えないけど、せめて落ち着かせる事が出来れば。
距離を取って刀を構えれば、彼は楽しそうに笑った。


――――――――――――


着いた時、葵は血塗れの状態で地面に倒れていて、左手、右足を失い喉も裂かれている酷い状態だった。
その犯人のニオイを辿って来てみれば、余裕そうに煙草を吸っている、見覚えのある姿を見つける。
人間だった頃の名前は確か、透だったかな。
まさか帰ってくるとは思ってなかった、しかも同じ殺人鬼として。
もっとちゃんと見ておけば良かったと後悔する。


「ねえ、葵を殺したのはお前?」

「あ?…何かと思えば猫か。そうだよ。生前の事を教えろって言ったら「透君にこれ以上人間を憎んで欲しくないし、手を汚して欲しくないから嫌」だってさ」


ああ…まあ、あの子が言いそうな事だ。
自分を置いてどっかに消えた相手に、そんな事思う必要ないと思うけど。
しかも殺されちゃうなんてさ、あーあ、腹立つなあ。


「あー…でも、アイツの泣き顔は良いな。全身がゾクゾクする程興奮する。話さないならそう言う理由で会いに行くのも有りだ。またいじめに」

「そっちの趣味嗜好はどうでも良いけど、あの子をいじめるなら許さない」

「…俺はアイツの事も狙うけど、お前も殺す気でいるんだよ。理由は分からんが特に気に食わん」

「は?何それ?無自覚な嫉妬?言っておくけど、ボクに取られたのもアンタがそんな状態になったのも全部自業自得じゃないの?大体想像つくし、あの時ちゃんと気持ちでも伝えておけば変わったかもしれないのにね。って覚えてない奴に言ったって無駄かなあ」

「…ムカつく」

「ムカつくのはボクもだけど。じゃあね時計野郎。次会ったら殺すから」


正直な所今すぐ殺してやりたいけれど、葵が心配なので早く戻りたかった。
あの状態だと、再生と意識を取り戻すのに少し時間がかるかも知れない。
相手も今殺し合うつもりはない様だ。
…葵はボクが守らないと。これからもずっと。
あの子はもうボクのものなんだから。



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