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psychedelic dreams -02

※人型PCデリック→製作者臨也(?) 人型PCなサイケ静雄と日々也さんが出てきます。注意。
















「臨也さん、好きです」

そう言いながら圧し掛かる長身に、臨也は瞠目した。
二人分の体重を受けて沈むソファ。
その上に押し倒されて、見下ろされて。
書類を片手に次の仕事の段取りを考えていた臨也は、突然の出来事にただただ唖然とするだけだった。

“サイケデリック02”

サイケデリックドリームスシリーズの新作として臨也が製作を依頼された、人型PCの試作品。
01をサイケと呼んでいるので、じゃあデリックでいいか、と適当な名付け方をされた彼は確かに人と同じ姿をしているが、パソコンなのだ。
ハードからOS、ソフトに至るまで、すべて自分で設計する臨也は、彼らに出来ることも出来ないことも、全て把握しているはずだった。
当然、臨也の知る限り、デリックには人間に愛を囁くような、そんなプログラムは入れていない。
まさかバグか、と首を傾げるのんきな臨也に。
デリックは焦れたのか、頬を両手で包んで顔を近づけてくる。

「ちょ、待て、デリックっ、何考えてんの!っていうか何する気!?」
「何って、キスですけど」
「すんな!よく見てよ、俺は臨也、折原臨也だから!君の大事な日々也くんじゃないから!」

ようやく状況を正しく把握して暴れだした臨也を押さえ付けて、デリックは溜息をついた。

「知ってます。さっき臨也さんって呼んだじゃないですか」
「知ってるなら何でこんなことしてるんだよ!」
「それもさっき言いました。俺は臨也さんが好きなんです。俺みたいなのがこんなことあなたに言うのは間違ってるって分かってます。でも、好きなんです」

切なげな目で見詰めてくるデリックに、臨也はこれは本格的にヤバイと身を捩って逃れようと試みるが、さすが機械。モデルになった静雄と違い加減はきいているが半端ない力で押さえられていて、逃げることはかなわなかった。
青ざめる臨也にデリックは苦しげな微笑を浮かべて、目の端にキスを落としてくる。
どくりと心臓がざわめいて、臨也はギリッと奥歯を噛み締めた。
静雄と同じ容姿だが、これは静雄ではない。体の関係は持ちながらいまだ告白すら出来ないでいる臨也の想い人ではないのだ。
静雄の瞳とは違う、ピンク色の瞳が悲しげに細められて。
臨也はその表情に堪えかねて、目をきつく瞑る。

「一度でいいんです。…あなたが静雄さんを好きなのは知っています。俺を好きになって欲しいなんて、そんな贅沢は言いませんから、だから」
「っ」

熱っぽい声で囁かれて、臨也は唇を噛み締めた。
想い人と同じ声。なのに、彼が決して言わない科白が、胸に痛かった。
両手を頭の上で束ねて押さて、さらに臨也の衣服を乱そうとする手。
キリキリと痛む胸に呻いて、臨也は嫌だと首を振る。
いくら静雄と同じ顔、声をした相手でも、受け入れることはできなかった。
自分がそうされて許せるのは静雄だけで、それ以外など欲しくない。涙が滲みそうになる。

「や、だっ、デリック、やめて、」
「…ごめんなさい」
「ひ、ぅ……や、しずちゃん…っ」

この場にいない人物、しかもたぶんこの状況でも自分を助けてくれなどしないだろう人物の名を呼んで。
臨也は一粒涙を零し――、ドアノブに手をかけたまま凍りついている男と、目が合った。
自分を組み敷く男と同じ顔。だが、その瞳の色は淡い茶色で。

「し、ず…ちゃん?」
「ッ」

唖然としてその男の名を口にした臨也に。
男――静雄はビクリと体を揺らして、それから大股で近づいて来て、臨也の上から自分と同じ顔をした人型PCを引き剥がす。

「手前、何してやがるッ」

怒りを押し殺したような声で言われて、首を竦ませた臨也だったが。
すぐに、どうやら静雄の怒りの矛先は自分ではないらしいと知ることになる。
青ざめた顔――人型とはいえPCに青ざめた顔というのも何だか変だが――で静雄を見るデリック。
静雄はそんなデリックを掴んだ手を大きく振って、放した。

ドカン!

派手な音を立てて、壁に激突したデリックに、今度は臨也が青ざめる。
「な、何しちゃってんのシズちゃん!デリック大丈夫!?」
慌てて身を起こしてデリックの無事を確認しようとして。
しかし、臨也はそこから一歩も踏み出すことはできなかった。
自分よりも体温の高い腕に背後から囚われて、自由を奪われて。
臨也は「え?」と小さく間の抜けた声を上げる。

「し、シズちゃん?あの、離して?デリック確認しなきゃ拙いんだよ。そりゃちょっとやそっとじゃ壊れないように作ったつもりだけど、それはあくまで通常使用の場合だけを想定していて――」
「煩ぇ、黙れ」

不機嫌そのものな声と同時に拘束する腕の力が強くなって、臨也は骨が軋む音と痛みに低く呻く。
怒り狂うのでなく、無理やり押し殺した怒りを孕む声。
何時にない怒り方をする静雄に困惑して、臨也は恐る恐る後ろを振り返った。

「…シズ、ちゃん?」

振り返った視線の先、不機嫌に顔を歪める静雄の顔を見て。
臨也の困惑はさらに強まる。
静雄は自分を何とも思っていないと信じ込んでいる臨也には、彼が何で怒っているのか分からなかったのだ。

「シズちゃん、何怒って」
「手前、何あんな野郎に押し倒されてんだよ」
「は、え…?え?…いや、あの」
「まさかあいつに乗り換えようってんじゃねぇだろうな」
「は…、……はあ!?何、言ってんのさ、そんなことするわけないでしょ?デリックは津軽やサイケや日々也と同じ、俺の作品…子供みたいなものなんだよ?」
「なら押し倒されて大人しくヤられそうになってんじゃねぇ」
「う…だ、だってまさかデリックがあんなこと言い出すと思わなかったし、力が強すぎて逃げられなかったし」
「ああっ、ったく…泣きそうになんなよ」
「だって…っ」

何で俺が責められなきゃいけないのさと涙目で睨む臨也に。
静雄はギリギリと奥歯を噛み締めて、くそっと吐き捨てた。

「…俺以外に泣かされてんじゃねぇ」
「?」
「くそっ…サイケといい津軽といい…パートナーがいるくせにあいつら手前を構い過ぎなんだよ」
「…しずちゃん?」

首を傾げて怪訝そうな表情をする臨也は、もう少し自分が置かれている立場とか静雄の想いとかを真剣に考えるべきなのだ。
悪巧みさえしなければとても魅力的な存在なのだ、この男は。
改めてそれを教えられて、静雄は深く深く溜息をつく。
そして、部屋の隅、先ほど叩きつけてやった壁のすぐ下で衝撃によって機能停止しているのだろう白スーツの人型PCを睨んだ。
まんまと策略に乗せられた気がしないでもないが、もういい。今更だ。
これは俺のだ。手前らの製作者だろうがなんだろうが、俺だけのものだ。
そう自分自身に宣言して、静雄は臨也にもそれを告げるために、真剣な面持ちで口を開いた。











静雄と臨也が互いの想いをついに伝え合って、寝室でラブラブ(死語)している頃。
現在のところ一番最後の制作ながらおそらく一番賢い人型PC――日々也の手で再起動されたデリックは、痛む体にうっすら涙を浮かべながらも必死に日々也に訴えていた。
曰く、マスターが可哀想過ぎて見てられなかったから何とかしてあげたかったのだ、とか。曰く、静雄が来る予定なのは津軽に確認済みだったのだ、とか。
言い訳と取られても文句の言えない計画を必死に伝えて日々也の機嫌を回復させようとするデリックに。
日々也は呆れた顔でやれやれと首を振った。
別に、日々也はそのことで怒っているわけではない。むしろ自分もあのどうしようもなく不器用な二人を何とかしたいとは思っていたのだ。だが。

――なにも、お前がそれをする必要はないだろう。

独占欲が強いのはオリジナルだけではないのだ。
サイケと津軽が互いにそうであるように、日々也だってデリックが他の存在に構うのは許せない。
それをまるで理解していない頭の悪い先輩PCに、日々也は憤る。
だから、嫉妬心で内心荒れ狂う彼は、デリックを慰めたりなどしてやらないのだ。

「デリック、お前馬鹿だろう」
「…酷い…」

俺頑張ったのに、と嘆くデリックに。
彼の『王子様』こと日々也は、ただ冷めた目を向けてふんと鼻を鳴らすのだった。














※シズ⇔イザとデリ日々。

タイトルはリアル友人への捧げものと同時期同設定で書いた時のものなのでスルーしてください。もうすっかりタイトル付けるの放棄してるので当時のままなのです。…確か04まであったはずなのにファイルが見つからない謎。


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