ch2.密林の白昼夢


「案外、少なかったんだねぇ……」

向かってきた賊たちを全て捻じ伏せた後、背後から呆れたようなアリサの声がポツリと聞こえた。咳き込む足元の男たちを見、不満げなアリサを見、アルフォンソは頷く。なるほど、たしかに相対した時の賊の人数は多いように感じたが、こうやって地に伏している賊たちを見れば、ほんの十三人でしかなかったことが分かる。

「たしかに、もう少し居た気がしたんだが……」

納得したようにアルフォンソは呟いた瞬間に、自分の足元の男が、ピクリと不審に動くのを目にした。慎重な動きで何かを探るように自身の懐に手を入れた賊の一人が、様子を伺うようにアルフォンソを見上げる。アルフォンソと賊の視線がかち合い、男は驚きに目を見開いて、硬直した。アルフォンソは冷めた一瞥を足元の男によこし、溜め息と同時に男の股間を鋭く蹴った。男の懐からは通信機器と思わしきものが転がり落ちる。地を這うような男の鈍い呻き声が、場の空気を微妙に震わせる。同じ男として痛みを知っているがゆえに、アルフォンソは顔をしかめながらも、その通信機器を拾うべく体を屈めた。

その瞬間、アルフォンソの体に鋭い敵意が向けられた。自身の体を貫通するような、細くも強い殺気に素早く反応し、アルフォンソは前傾姿勢のまま自ら勢いよく地面を転がった。それと同時にアリサが自分の名前を鋭く叫ぶ声と、比較的大きい銃の発砲音、そして何かが派手に割れたような音が、転がるアルフォンソの耳に飛び込んだ。
地面を転がった後にアルフォンソが殺気を向けられた方を見ると、いつの間にやら剣を抜いたらしいアリサが、そこにある岩陰に飛び掛かろうとしている瞬間だった。
アルフォンソは見えざる奇襲者の相手はアリサに任せられるだろうと判断し、先程拾おうとしていた通信機器を今度こそ拾おうと、素早く辺りを見回す。すぐにそれらしきものは見つかったが、いかんせん、通信機器は見事に破壊され、残骸となった機器の部品が辺りに細かく散らばっているだけだった。なるほど、奇襲者の目的は最初からこの通信機器だったということか。そうアルフォンソは一人で納得し、してやられたといわんばかりに苦笑を浮かべた。

再び聞こえた発砲音に、アルフォンソは岩陰に目をやった。アリサが舌打ちをしながら岩陰から飛び出すようにして退くのが見え、アルフォンソはすぐさま加勢に向かった。岩陰に向かって駆け出しながら、アルフォンソは背に上手く隠し持っていた長槍を素早く引き抜く。駆け寄ってくるアルフォンソを横目で一瞥したアリサが、岩陰を顎で示した。アリサの言いたい事を察したアルフォンソが小さく頷いたその一瞬後に、岩陰から一つの影が飛び出し、アリサに踊りかかった。その影に狙いを定めて突き出されたアルフォンソの槍が、真空の甲高い音を立てながら相手の胴体に鋭く突き刺さる。かと思いきや、間一髪というところで、影の姿は慣性の法則に反した不自然な動きで、ぐいっと何かに引っ張らたかのように後ろに退いてしまった。影として飛び出してきた人間の後ろに、もう一人の人間が立っていた。どうやら、敵の正体は二人組みだったようだ。歩み寄ってくるアリサがアルフォンソの隣で立ち止まり、アルフォンソとアリサ、そして謎の二人組みの男たちは向き合う形で静止する。




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