ch1.黒髪の兄弟 44
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ある特殊な血統の女性が人知れず放った青く緑色に光る祈り、暗い煙がスエ族の付近の森全体を包みこむ。
微力ながらも女性の祈りは届けられ、聖なるパイプによって壊された"生と死の境界線"は、全部で4本。
一つは覆面の男盗賊の境界線。
彼は自分が盗賊だったことを忘れた。
一つは覆面の女盗賊の境界線。
彼女は自分が大富豪の娘だったことを思い出した。
一つは健気な少年の境界線。
少年は一切の恐怖を忘れてしまった。
一つは黒く歪んだ白の女神の境界線。
女神は全てを受け入れ、女性の死と自らの復活を嘆いた。
本来は壊されるはずのない強い境界線、"事実と虚無の境界線"を聖なるパイプによって壊された青年が一人、立ち上がる。
「オレはダレも殺してない。きっと、アイツらが皆を殺したんだ……<RED LUNA>?」
青年に近寄る緑の髪の男が言う。
「幼馴染のルイドを殺した奴等……<RED LUNA>が憎いんだろう? じゃあ俺たちと来いよ、シリル=バージェス」
「オマエら、ダレだ……っ!」
「ああ、覚えてないのか。俺は帝国の暗殺部隊、ギー。こっちの女は仲間のエンマ。シリル、弱いって罪だと思わないか? お前の力、俺たちが伸ばしてやるよ」
差し出される暗い光の中の希望、黒い希望に満ちた彼らの手。
何も分からない青年は、差し出されたその手を強く握った。
−ch1. 黒髪の兄弟 END−
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