ch1.黒髪の兄弟 42



アリサが平原に到着した頃には、いつの間にか辺りは暗くなっていた。
平原に小さく座り込んでいる黒い髪は、血のにおいが漂う生臭い場所ですぐに見つかった。座り込む黒い髪の彼と、そのすぐ傍で倒れる黒い髪の少年の死に様は、酷く痛々しい光景だった。

「……ルカ」

名前を呼んでも何も反応しない彼に、アリサは舌打ちしながら容赦なく蹴りをいれた。
何の抵抗もなく倒れこんだルカの顔を隠す前髪を乱暴に掴んでルカの顔を覗き込むと、アリサは諦めたように溜め息を吐いた。

「ああ、これはもう駄目だね……」

そうポツリと呟いてアリサは夫人から受け取った聖なるパイプを左脇に挟み、焦点が合っておらず、何も反応できないような精神状態に陥っているルカを、細身ながらも豪腕である彼女の右腕でしっかりと支えながら肩に担ぎ上げる。アリサはルイドの遺体を一瞥し、少年の無残な死体に哀れむような視線を向けた。

「悪いけど、埋葬はしないよ。アタシらはガロンの気が変わる前に、早く消えなくちゃいけないからね」

そうボソリと呟くと、アリサは夜の森に紛れ、大きく森を迂回して、仲間達の待つベースキャンプへの道を引き返す。

空虚なルカの瞳とルイドの瞳が一瞬、重なった。



連日走りっ放し、そして闘いっ放しのアリサは流石に疲れを感じているのか、完全に憔悴した顔つきになっていた。途中で肩に担いだルカが何か意味の分からない言葉を発して魘されていたことが、度々アリサの朦朧とする意識を覚醒させていた。

そんな疲れた頭でも、さまざまな考え事がアリサの頭を駆け巡る。

夫人は殺され、ルイドも殺された。そして、女神様も殺されたスエ族の村人達は、今回の事件をどう見るだろうか?
この聖なるパイプを奪おうとして、帝国軍がスエ族の村に襲撃したりはしないのだろうか?
帝国は女神様や神獣をも実験対象として扱い始めたが、アタシ達はどうすべきなのか?
色々な考えが頭を通り過ぎる中、アリサには一つだけ妙に引っかかることがあった。
ガロンとアルフォンソ、そしてルカの関係だ。

実は、<RED LUNA>の副リーダーにして第一幹部であるアルフォンソ=ウリッセ=モンテサントと、帝国の暗殺部隊の隊長であるガロンという男の関係を、アリサは酔ったアルフォンソから一度だけ聞いたことがあった。

ガロンと呼ばれて恐れられている男の本名は、ラウロ=モンテサント。
驚くことにアルフォンソが言うには、アルフォンソとラウロは二卵性の双子の兄弟だったらしいのだ。元々は優しい弟だったと、アルフォンソはアリサに語った。


初めてそんなことを聞いたときは驚いたが、確かめようにもアルフォンソはすぐに泥酔して寝てしまったために、アルフォンソ自信も覚えていないその夜のことはアリサの記憶に封印されるに留まっていた。

ラウロを諦めろ、アルフォンソにそう伝えろ。そうガロンは言っていた。
曖昧にしか事態を把握していないアリサにはよく分からないが、きっとアルフォンソは、ラウロという弟の人格を取り戻すために帝国やR生物と闘っているのだろうと推測する。

だが、<RED LUNA>からは抜けることは出来ない。抜ける時は、死んで墓に入る時だけ、そういう掟だ。

ラウロかガロンか知らないが、たとえアルフォンソに闘う理由が無くなったのだとしても、アルフォンソは一度首を突っ込んだ闘いから、もう逃れることは出来ないのだ。アリサは深く溜め息を吐いた。




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