ch1.黒髪の兄弟 35



ボンヤリと浮上する意識。布団からモゾモゾと這い出たルカは、外が騒がしいことに気が付いた。何かあったのかと起き上がって窓から外の景色を眺めると、数名の村人が一様に頭を下げているのが一番に目に入った。
そんな彼らに囲まれて困った表情を浮かべているのは案の定、ルイドとバグウェル夫人の二人だった。

自分が少し寝ている間に何人もの村人がこの家に謝罪に来ているのだろうということを理解したルカは、呆れたように深い溜め息を吐いた。
しばらくしてから、村人達が何度も何度も執拗に二人に頭を下げながら去っていくのをしっかりと見届け、ルカは玄関先で苦笑を浮かべ合うルイドと夫人の傍へと近寄った。

「すごい大変みたいだな、ルイド」

ルカが笑いながら声をかけると、ようやくルイドは近寄ってきたルカに気付いたらしく、表情を輝かせてルカに飛びついた。

「ルカさん! 今日の夕飯、僕が獲ってきたバッファローのご馳走だよ!」

両手を取られながらルイドに言われ、ルカは不思議そうに首を傾げた。

「……昼飯、もう終わったのか?」

そうルイドに聞くと、ルイドはルカの問いに笑顔で頷いた。

「もう昼過ぎ、お菓子の時間だよ。ルカさん、お腹空いてないの?」

ルイドの言葉に、ルカは寝ていただけだから全然大丈夫だと本音を伝えておいたが、何に納得いかないのか、ルイドは複雑な表情を浮かべていた。

「アリサ、帰ってきてないですか?」

ルイドから夫人に視線を移してそれとなく問うと、夫人は静かに首を横へ振った。朝から出ていたはずだが、アリサが未だに帰ってきていないらしい事実にルカは驚いた。迅速な任務終了を望んでいるだろう彼女にしては珍しく手間取っているようで、アリサの身が少し心配になった。

「彼女に任せっきりで、本当に申し訳ないわ……」

ポツリと漏らした夫人の言葉に、ルカは夫人に疑問の視線をぶつけた。その視線を受け取った夫人は、ルカに向かって柔らかく微笑む。

「何となくだけど、分かってるわ。女神様を……楽にしてあげるため、彼女は動いているんでしょう?」

言われ、ルカは肩をすくめるような反応をしただけで、返事はしなかった。流石に任務の内容を喋る訳にはいかないと判断したから答えなかったものの、まさしく夫人の言う通りだった。
ルカと夫人のやり取りを眺めていたルイドが突然、ルカの服の袖をグイグイと引っ張った。ルカが視線を落とすと、そこには光輝くルイドの笑顔があった。

「ルカさん、ちょっとだけ狩りに行こうよ!」

一瞬、アリサを探した方が良いのではと言う考えがルカの脳裏を掠めたが、すぐにアリサの「大人しくしておけ」という命令を思い出してルカは溜め息を吐いた。少々乱暴な師匠だが、彼女の実力は気性に伴っていて非常に高く、ルカは自分が居てはかえって足手纏いなのだとよく知っていた。

そして目の前の純粋無垢な少年の笑顔を拒絶する理由などどこにもなく、ルカは苦笑しながらルイドの頭を撫でた。

「言っとくけど、俺の銃技はすごいからな?」

肯定の意味を込めてそう言えば、ルイドは嬉しそうにキャッキャとはしゃいで、弓を取りに家に戻った。

「病み上がりで疲れてるのにごめんね、ルカ君。無理はしないで、適当に帰って来てもらって構わないわ」

はしゃぐルイドを見て見て夫人は苦笑しながらルカに謝罪を述べ、ルカは幸せそうな表情で首を横に振った。

「ルイドみたいな可愛い弟の頼みだったら、大歓迎ですから」






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