ch1.黒髪の兄弟 33




「分かってねえなあ、エンマ。アリサはツンデレなだけで、本当は俺のことが大好きに違いないが、敵という立場上の問題でツンツンしてるだけだ。そうだよなあ、アリサ?」

緑の髪の男は嬉しそうにそう言ってアリサを振り返った。瞬間、彼は突然目の前に現れた銀色の切っ先を捉え、反射的にしゃがんだ。アリサの鋭い剣先が先程まで緑の男の首があった空間を貫き、標的を逃したアリサは背後に人の気配を感じ、舌打ちをしながらすぐさま身を退く。
そして、そのアリサの胴体が一瞬前にあった空間には、巨大なバスターソードが横一線に大きくフルスイングされていた。

「今日こそ殺してやるよ、出来損ないの殺人人形が」

短く刈った茶髪を風になびかせ、スラッとした長身には不似合いな程に巨大なバスターソードを持った女性、エンマは、アリサにニヤニヤと笑いかける。それに対するアリサの反応は、あからさまな嘲笑だった。

「生憎、アタシはもう人形じゃなくなったんだよ。そんなに人形遊びがしてえなら、帰って厳ついマッチョな軍人とでも遊んでろ。
あとアンタさ、アタシに負ける度に武器デカくすんの、いい加減にやめろよ。だっせえな」

挑発されたエンマの目が怒りで細められ、そのままアリサに飛び掛ろうとエンマがバスターソードを構えた瞬間、緑の髪の男がエンマの前に立ち塞がった。文句を言おうとエンマが口を開く前に、鼻血を拭いながら緑の髪の男が口を開いた。

「目的忘れちゃいけねーよな、エンマ? 今日の俺とお前の任務は、アレの実験だろ?」

ニヤニヤと笑って目を光らせるギーに、彼の言いたい事を理解したアリサは、ぐっと息を飲んだ。

「アンタら、まさか女神様にまで……」

怒りに燃えるアリサの視線を受けとると、ギーは至極楽しそうにウインクをする。
「アリサ正解ー! ご褒美は、黒い女神様とのお遊戯会チケットですよーっと」

緑の髪の男、ギーの周囲に緑色の光がフツフツと現れ始めた。
昼間の明るさでなければ、この場はまるで夜の闇に浮かぶ緑の光を放つ蛍の住処のように、幻想的に輝いていたことだろう。静かに目を閉じ、やがてまた開かれたギーの瞳は魔力の色に染まり、不気味な色を放っていた。

「……来いよ、元・女神様。標的は、俺の愛しのアリサだぜ?」

ギーがニヤリと笑って呟いた瞬間、ボコボコと彼の足元に黒い沼が浮かび上がる。毒々しい色合いのそれに平然と立つギーの横では、沼の泥がまるで意思を持っているようにグネグネと動き、人の形を形作るように立体化していく。

初めて目にするおぞましい、かつ異様な光景に、アリサは悪寒を感じて硬直することしか出来なかった。

ボコボコと生々しい音を立てて変形し続ける黒いモノに、エンマはギーと同じように愉しげな笑みを浮かべる。

「女神のR生物化、成功か?」

エンマの問いに答えるかのように変形を止めた黒いモノは、灰色の体と髪、そして赤い目を持つ女性の姿だった。

まさしくその姿は、あの白く美しかったホワイトバッファローウーマンという女神が、おぞましくR生物化した成れの果てでしかなかった。
先程に感じた一瞬の女神の気配が女神様の最期だったのだと理解し、アリサは諦めたように溜め息を吐いて剣を構えた。

「帝国のR生物を操作できるって噂の男……アンタのことだったのかよ。さらに幻滅したね、雑草野郎が」

憎憎しげに呟いたアリサに、ギーは静かに微笑んで、ナイフを取り出した。

「俺だってショックだったぜ? あの伝説の組織である<RED LUNA>が実在していて、オマケにアリサがその組織の一員だったなんてなあ?」

ワザとらしく泣き真似を始めたギーに、アリサは嫌悪感のこもった視線を冷たく向けただけだった。アリサが何も反応してくれないことをチラリと確認すると、ギーは残念そうに肩を落とす。

「さあ、不機嫌で我侭なお姫様に満足していただくために、本日は三人がかりで精一杯お相手いたしましょう」

ギーがニッコリと笑顔で言った瞬間、エンマと黒い女神が同時に動き、一気にアリサへと襲い掛かった。





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