ch1.黒髪の兄弟 20





――ルカへ
お前がコレを読む頃には、もう遅かったかもしれない。

先にお前に謝っておくことがある。アリサが今、そっちに向かっている。お前の事だから任務はもう終わっていると思うから、今すぐベースキャンプに戻って来い――


ルカは、顔が引きつるのを感じた。
アリサが来る。弟子の失敗を笑いに? いや、それとも……お仕置という名の体罰を与えに来るのかもしれない。考えずとも、おそらく後者だろう。

兄から送られた手紙の内容は、当たり前のようにルイド親子を殺してしまったことが前提の話だったが、今のルカには任務達成なんて出来るはずが無かった。
任務も達成していなければ、達成する気も無くなってしまった今、ルカにとって、アリサが今にもやって来ると言う事実は、非常に都合が悪い情報だった。

ルカは手汗を感じながら、手紙を読み進める。
一刻も早く、バグウェル親子を連れて、ここから逃げなければならない。


――ベースキャンプの場所は変わっていない。あと一週間ほど滞在する予定だから、遠回りしてでも険しい山道通ってでも、絶対にアリサに出くわさない道を選んで帰ってこいよ。アイツ、今度こそ絶対お前を殺す気だぞ。

もしも、もう出会ってたなら何とかして逃げて来い。<RED LUNA>に帰ってきたら、逃げた事でアリサに文句なんか、俺が言わせないから安心しろ。
俺は事情があって今すぐそっちに駆けつけられないが、1人でも帰ってこられるな?

帰ってきたら、いい加減にアリサをお前の師匠から外してもらえるように頼んでやるから……――


そこまで読んで、突然、ルカの手に持っていた手紙が何者かによってヒョイと背後から奪われた。

その瞬間、ルカは背筋が凍るほどのショックを受ける。背後に立つ誰かの気配を全く感じなかったこと。それ自体にショックを受けたのではなく、完璧に気配を消せる人間が、背後に立っているという恐怖。そんなに完璧に気配を消すことが出来るのは、ルカの知る中ではアリサしかいない。


――お前がコレを読む頃には、もう遅かったかもしれない――


……まさか、本当に?
振り返る気力も起きず、ただ震えそうな体を押さえつける事でルカは精一杯だった。

数秒の恐ろしいほどの静けさ。そして、静寂を破ったのは頭上で紙がビリビリと裂かれる音と、低く愉快そうに笑う声だった。その笑い声を聞いた瞬間、ルカの疑問は確信に変わり、絶望的な状況が出来上がった。

「アイツ、ほんとブラコンだな。……アンタもそう思うよな、ルカ?」

聞こえてくる低い女声。ルカは振り向きもせず、震える口を開く。すっかり乾いた唇を舐めると、静かに深く息を吸う。

「……久しぶり、アリサ」

震える全身とは矛盾して、やけに通った声が出た。





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