ch1.黒髪の兄弟 12




「紹介するよ。こちらは僕の恩人のルカさんと、そのお兄さんのアルフォンソさん。ルカさん、アルフォンソさん。こっちは僕の幼馴染のシリルです」

ルイドが初対面の3人を紹介し、ルカ、アルフォンソ、シリルは頭を下げ合った。ルイドより頭一つ分大きいシリルという名前の青年は、意外にもルイドの幼馴染であるらしかった。

「ありがとう、君はルイドの命の恩人だ……!」

体格に合ったその大きな手でルカの手を握りこむシリルに、ルカは戸惑ったような表情を浮かべて、何か言いたげに口をモゴモゴと動かしていた。

「どうしてルイドがR生物の生贄になったんだ?」

アルフォンソが抱いていた疑問をシリルにぶつけるも、青年は分からないとばかりに首を横に振った。

「じゃあ質問を変える。ルイドが生贄に選ばれた時の様子を教えてほしい」

続け様にアルフォンソが問うと、シリルは困った顔をした。

「俺にも、本当によく分からないことだらけなんだ。今夜、R生物が降りてくるのは、俺達が村の守り神様を怒らせたからだって……先日、"神の遣い"として村に来た男に言われたんだ」

「神の遣い……だと?」

いぶかしげな表情でアルフォンソが呟くと、シリルが頷く。

「何で……リーダー以外に、赤月の日が分かるヤツがいるんだ」

ポツリと呟くルカに、アルフォンソはハッとする。たしかにルカの言う通り、<RED LUNA>のリーダー以外に赤月の日を察知できる者は、世界中を探しても絶対に存在しないはずだ。だが、"神の遣い"とやらが赤月の日を知っていたというのなら、その男の正体は明らかだった。R生物を創り出している帝国の人間、それでしかあり得ない。

ふと、考え込んでいた自分を心配そうな目で見ていたシリルに気付き、アルフォンソは慌てて作り笑いを浮かべて話の先を促した。それに答えるように頷いたシリルが再び話し始める。

「その男は、もし赤月の日がきたら……その、生贄として、村の私生児をR生物に食わせろ、神はソレにお怒りだ。そう言い残して去ったらしいんだ。村に私生児なんて居ちゃいけないルールがあるし、居るはずがないだろうと俺は思っていたから、頭のおかしい男の戯言だと思っていたんだけど、ルイド、お前が……私生児だったんだな」

言い終わると、シリルは戸惑うように視線を落とした。ルイドが驚きに目を見開く。

「僕は私生児なんかじゃない! たしかに父さんは居ないけど、昔、狩りで誤って命を落としたって……。髪や目の色だって、村の皆と変わらないじゃないか!」

「こんなこと勝手に教えて、ごめんな。一部の村の大人たちは、知ってたんだ。ルイドが、他所から立ち寄った男と、ルイドの母さんの間に出来た子供だって」

シリルは視線を落としたまま、上げようとしなかった。ルイドはしばらくシリルを見つめていたが、やがて何かを振り払うかのように頭を振った後、怒りと戸惑いの入り混じった感情をこらえるように、唇をかみ締めた。

「私生児どうこうっていう話はひとまず置いといて、話を続けてくれないか?」

アルフォンソが更に先を促すと、シリルが少しだけ顔を上げて、弱弱しく頷いた。

「"神の遣い"の予言どおり、今夜の赤月で、R生物がこの村のすぐ近くに降りてきた。最近、めっきりバッファローが見当たらなくなったせいで村は飢饉に近い状況だった上に、R生物まで村にやってきた。
"神の遣い"が言う通り、本当に村の神様を怒らせてしまったんだと思った大人たちが、冷静に考える間もなく……ルイドを生贄として山に捨て置いたんだと思う」

聞けば、ルイドを生贄とすることをシリルが知った時、ルイドはすでに連れて行かれた後だったらしい。大人達はこれで安泰とばかりに家に篭もり、いくらシリルやルイドの母親が頼み込んだとしても、誰一人として家から出てきてくれなかったそうだ。
そして、ルイドの母親はずっと一人、家で狂ったように泣き続けているらしい。それを聞いたルイドは辛そうに顔を歪め、決心したように顔を上げた。

「一度、僕は家に戻る。母さんが心配だし、聞きたいこともある」

そう言ったルイドの表情は、一縷の不安と心強さを兼ね備えていた。

「一緒に来てくれませんか?」

アルフォンソとルカ、そしてシリルの顔を見てそう言ったルイドに、アルフォンソとルカが頷く。何も応じないシリルにルイドが目をやると、彼はゆっくりと首を横に振った。

「俺は、もうルイドとは友達で居られない。……俺は、今回の件で、ルイドに何もしてやれなかった。見捨てたも同然なんだ。
だから……俺はもう、ルイドとは仲の良い幼馴染で居られない」

その一瞬、緊張して張り詰めた空気が、4人の肌に突き刺さった。






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