ch1.黒髪の兄弟 11
荒地と化した大地を発ち、しばらく歩くと3人の視界に再び緑が戻ってきた。そして、山の下にひっそりと存在していた木々の小道を抜けた先。ひび割れの入った木の看板に刻まれた、獣を思わせるような形の紋章。ひっそりと静まり返った村の入り口で、先頭を行っていたルイドが足を止めた。
「着いた……」
ルイドが小さく震える声でそう呟くのが、アルフォンソとルカの耳に微かに届いた。
アルフォンソとルカは、ルイドが動くのをじっと待った。唇を震わせて立ち尽くしていたルイドは、一瞬うなだれてからバッと顔を上げたかと思うと、唇を強くかみ締めて一歩を踏み出した。
一歩、また一歩と歩みだしたルイドに続いて、アルフォンソとルカが無言で後ろに続く。
入り口から僅か十歩ほど歩いた場所で、アルフォンソは剥き出しにされた殺気を感じて、前を行くルイドの襟首をぐいっと引き寄せた。
瞬間、ルイドが立っていた場所に鋭い何かが突き刺さる。細長い割りに大きな殺傷力を秘めたそれは、銀色の矢。ルイドの体が小刻みに震え始めたのを、アルフォンソは感じた。
「おい、何してるんだ」
家々の合間。矢が飛んできた方向に向かってアルフォンソは静かに話しかけた。途端に、物陰から出てきた人影は、浅葱色のローブを纏った色白の男だった。ルイドと同じような格好、スキンカラー。それだけで男の正体を知る事は容易かった。
「お前達は何者だ」
青年の声が夜の村に低く、静かに響く。ピリピリとした警戒心を感じ、アルフォンソは肩をすくめた。
「お届けモノを届けに来ただけだ」
アルフォンソは、そう言って震えを堪えようと健気に頑張っているルイドを前に押し出す。男の警戒心が強くなるのが分かった。
「……ルイド、だよ。ただいま、シリル」
少年の声を聴いた瞬間、シリルと呼ばれた青年は弓を落とした。遠慮なく音を立てて落ちるその音が、静かな空気を大きく振動させる。
「よくもまあ、余所者の前で武器を手放せるもんだ」
ルカが隣で呆れたように呟いたのが聞こえて、アルフォンソは苦笑した。シリルはヨロヨロとルイドに近付くと、ルイドと同じ目線に合わせるように地面にしゃがみこんだ。
「ルイド、無事でよかった……!」
シリルがルイドを抱きしめた。ルイドは驚いたようだったが、安心したように頬を緩ませ、抱きしめ返す。シリルの肩越しにアルフォンソとルイドの目が合い、ルイドはようやく年相応の無邪気な満面の笑みを見せる。アルフォンソはそれに優しく笑い返した。
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