番外編 本当は一番に言いたかったこと


相互リク、シキ様。
アルとルカの兄弟で日常的なネタ。


***


深夜の平地に響き渡った獣の甲高い断末魔。一瞬、赤い蛍が弾けたかのように、暗闇の中で光が霧散した。

空気の動きが静止し、辺りは静寂に包まれる。
月と星だけが輝く夜空で、陸地は闇に包まれた。

暗闇の中で、アルフォンソはふぅっと息を吐いた。任務完了だ。
先ほど倒したR生物の血がベットリと付いた愛用の槍をアルフォンソが軽く手入れしていると、背後でキン、という綺麗な金属音が聞こえた。共に任務に来ていたルカが納刀したのだろう。

アルフォンソは時計を見る。ベースキャンプを出た時から日付を跨(マタ)ぎ、八月五日になっていた。

「悪いな、こんな日にまで付き合わせて」

「別に。俺、見張ってただけで何もしてないし……」

苦笑しながらアルフォンソがルカにそう言うと、ルカもアルフォンソとよく似たような苦笑を返した。
最近になって、必ず二人一組で任務に向かうことをリーダーであるデニスが厳しく命令しているため、アルフォンソはキャンプ内で暇そうにしていたルカを任務に連れてきていたのだ。

「っていうか、こんな日にまで付き合わせてって、どういうこと?」

ルカが怪訝そうに眉を潜めながら言った。アルフォンソは一瞬きょとん、とした後に、小さく噴き出した。

「お前、忘れてるのか? 今日はアレじゃないか、お前の――」

アルフォンソが言いかけた瞬間、ルカの携帯電話の着信が鳴った。
組織での癖か、ルカはアルフォンソの存在も無視するかのような素早さで携帯電話を開いた。

「もしもし。え、ライノ? 何、今終わったけど……は? あ、あぁ、そうか……うん、忘れてた。ありがとうな、今から帰るから。……じゃあな」

通話を終えた様子のルカが、納得いったような表情でアルフォンソを見た。ルカは、照れくさそうな笑顔を浮かべていた。

「俺、誕生日だったの忘れてた。まさかあのライノがわざわざ、誕生日おめでとう、なんて電話を俺にしてくるとは思わなかったけど」

女タラシで有名なルカの相棒のことをよく知るアルフォンソも、ルカの話を聞いて少し驚いた。しかし、何だかんだで優しいライノに、アルフォンソは微笑を浮かべていた。

どこか冷酷だった幼いライノを組織に入れたのは自分であり、そのライノと弟であるルカが仲良くしてくれているということは、アルフォンソにとって非常に嬉しいことだった。

「良い友人が居て良かったじゃないか。何にせよ、ルカ、誕生日おめで――」

アルフォンソが言いかけた時、再びルカの携帯電話が叫んだ。
またもや素早く着信に応じたルカを前に、アルフォンソは少しだけ肩を落とす。

「はい……えっ、シルヴィア!? あぁ、えっと、うん、元気だ、大丈夫。ケガもしてないし……あ、うん、ありがとう。じゃあ今から帰るから、それじゃあまた……」

ライノの時とは違って、どこか慌てたような、とても嬉しそうに笑うルカの様子を眺めながら、相変わらず女性下手な弟だと思いながら、アルフォンソは苦笑を浮かべた。だが、ルカが組織の天然少女、シルヴィアに好意を寄せていることに、アルフォンソは全く気付いていなかった。

「なんかごめんな、アル兄」

通話を終えて、アルフォンソに祝われるタイミングを完全に逃したことに気付いたルカが、気まずそうに声を掛けた。

「いやいや、別に構わない。とりあえず、みんな待ってくれているようだし、早くキャンプに戻るとするか」

アルフォンソはそれだけ言うと、ルカの前を歩き始めた。ルカが後ろからついてくる気配がしたが、その瞬間に三度目、ルカの携帯電話が鳴り響いた。

「あ、もしもし……リック?」

弟が楽しげに笑う声が背後から聞こえ、三度目の祝いを享受しているのを聞きながら、アルフォンソは小さく溜め息を吐いた。
少し視界が霞んでいたような気がしたが、気のせいだと思いたい。そんなことを考えながら、アルフォンソは携帯電話を取り出してメール画面を開いた。



誕生日おめでとう、
お前にいい友人が出来て良かった。
これからも、無理せずに頑張れよ。



短くそれだけを打ち込み、アルフォンソは未送信のままその文面を送信ボックスに追加した。キャンプに着いて、ルカと別れてから送るつもりだったからだ。
後から書けば良かったのだろうが、背後で電話越しに祝福を受ける弟の声を聞いていると、気持ちがどうにも収まらずに書いてしまった。

「……アル兄、聞いてる?」

突然、背後から聞こえてきたルカの言葉に、アルフォンソはハッと意識を現実に戻した。アルフォンソが振り返ると、不思議そうな顔で自分の様子を伺っているルカが居た。

「わ、悪い。少し考え事をしていたんだが……どうした?」

アルフォンソが聞くと、ルカは疑わしげな視線を一瞬投げた後、ふいと視線を逸らした。困ったように自身の後頭部をグシャグシャと掻いて黙ってしまったルカに、アルフォンソは首を傾げる。

「いや、うん、あのさ……。やっぱり、アル兄にはちゃんと誕生日おめでとうって言って欲しいなって思って」

しばらくの静寂の後、ルカがボソボソとそう言った。恥ずかしさを誤魔化すように溜め息を吐いたルカに、アルフォンソは一瞬言われたことの意味を理解できずにフリーズした。が、すぐさま満面の笑みを浮かべると、ルカの黒髪を容赦なくグシャグシャと撫でた。突然のことに、ルカがぎゃっと小さく叫ぶ。

「誕生日おめでとう、ルカ!」

「ちょ、やめろ! アル兄乱暴だ、髪抜けるっ……ハゲるってば!」

ギャアギャアと喚きながら、二人は夜闇の中を進む。

満天の星空は冷たく、穏やかな表情を浮かべて兄弟を見守っていた。







-end-






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