ch1.黒髪の兄弟



「ん、ぁあ……?」

聞こえてきた間の抜けた声。起こしてしまったかと少し後悔しながら、アルフォンソがその発信源に目をやると、ルカがうっすら目を開けて欠伸をしているところだった。

「起きたか?」

そう声をかけると、ルカは気だるそうにガシガシと頭を掻いた。

「……寝てた。ごめん、アル兄」

「相当疲れてるみたいだな」

気にするなというようにヒラヒラ右手を振り笑いかけると、ルカは申し訳なさそうな苦笑を浮かべた。
ルカは一瞬目を細めたかと思うと、再び大きく欠伸をする。

「今日は俺、朝から雑用続きなんだよ。なのに任務までやらされるなんて思わなかったな……リーダーは何を考えてるんだろう」

聞いて、アルフォンソは苦笑混じりに肩をすくめるしかなかった。


時はさかのぼって、今日の夕方だった。
今夜現れるR生物は雑魚、そう組織のリーダーは言っていた。

ゆえに、リーダーは本来ならルカ一人でこの任務に向かわせるつもりだったのだが、朝の雑用を終えた後、午後いっぱい訓練と称して組織の赤髪の女幹部に虐待と言っても差し支えがないくらいにボコボコにされたルカの足取りは頼りなく、それを見た兄アルフォンソは、リーダーにルカの任務には自分も向かいたいと伝えたのだった。

「いくら雑魚相手とはいえ、命懸けの実戦任務なんだ。万が一、大切な弟を失ったら俺は生きていく自信がない」

そうリーダーに言うと、リーダーはアルフォンソの弟に対する過保護ぶりを知っているため笑いながら了承した。

「分ぁったよ、このブラコン」

彼は、非常に失礼な言葉と共にアルフォンソの要求を了承した。そして、意味有り気にボソリと呟いたのだった。

「最も、お前の心配も杞憂に終わるだろうがな」

どういう意味なのか分からなかったが、アルフォンソは何も言わずにその場から離れたのだった。

――得体の知れない獣の、遠吠えのような細長く凛々しい声が響く。目の前のルカが身じろぎしたことで、アルフォンソはふっと意識をそちらに戻した。

「リーダーの無茶振りは今に始まった事じゃないだろ。明日は休み入れて貰えるだろうから頑張れ。
よし……じゃあ、任務の確認をする」

やんわりと弟をなだめた後、アルフォンソが任務の内容を少し冷めたような声で問えば、ルカは目付きを鋭くして柔らかく気を付けの姿勢をとった。

「今晩零時、月の変色が起こると予想されます。飛来予測地点はここ、反応は雑食型R生物です。任務の手順ですが、飛来直後のR生物を私が一気に仕留めます。……アルフォンソさんは陰で何があっても待機、R生物が逃げた場合にのみ現れて、速攻で仕留めてください」

ルカは真っ直ぐにアルフォンソの目を見て任務を確認する。その姿勢にアルフォンソの知る頼りない弟の面影はなく、立派な青年そのものの姿だった。

何があっても待機。それが意味するのは、ルカが倒れようがR生物がその場を動くまで戦場に出るなという事。
兄として、弟を甘やかせてあげたい思いから出来る限りさっきまで睡眠を取らせてやった。
だが、任務中のアルフォンソは組織の副リーダーで、ルカは一構成員にすぎないのだ。たかだか一構成員の命より任務達成が最優先だと考えるルカを、アルフォンソには否定することが出来なかった。

「……了解した」

アルフォンソは納得のいかない気持ちを抑え、ルカにそう答えるしかなかった。







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