初めての


「はぁ…。」


近頃長谷部の口から溜息が溢れる事が増えた。近侍でもある彼に部隊隊長も兼任させている。ほぼ毎日休み無しに働いているから恐らく疲れているのだろう。思い返してみると遠征ばかり行かせていたので言葉を交わす回数も前より劇的に減っている。このままでは審神者としての名が廃ると思った私はある事を思い付くのだった。


「ねぇ、長谷部。」
「はい、何でしょう?審神者様。」


今日は態と長谷部を部隊から外して私の傍に置いた。今は私の自室にて書類を片付ける私の様子を見つめている。自分以外の部隊に配属されている刀剣達は朝早くに出掛けて行った。自分だけ置いてかれた…それが不服だったのか私の呼び掛けに長谷部はすぐに返事を返すもその声音は少しだけ逆立っているように聞こえた。いつも私に対して従順な長谷部がこのような態度を示すなんて珍しい。やはり前の主との事があるせいか自分が使われなくなると不安になるのだろう。今日は…いや、これからも彼を不要だと思う時は無い。これだけは断言できる。


「最近どう?」
「どうって…あの…。」
「ごめん、ごめん。聞き方が悪かったかな…最近色んな事任せっきりにしてるから疲れてない?」
「は…?」


私が具体的な問いを掛けると長谷部はぽかんと口を開けたまま固まってしまった。恐らく彼にとっては予想もしなかった言葉だったのかと内心微笑んでしまう。しかしこれを顔に出せばきっと顔を赤くさせて怒るだろう。まぁ…それはそれで可愛いから構わないけど。

「だから…長谷部、疲れてるんじゃないかなと思って第一部隊の皆に相談して今日はお休みしてもらったの。」
「…俺が必要無くなったからではないのですか?」
「そんなわけ無いよ、長谷部は私にとって必要なの!貴方が傍についてくれるから私はこうして審神者として居られる。」
「有り難きお言葉…。」
「ねぇ…日々のお礼させて?」
「主?膝を叩いてどうされましたか?」


膝を叩く動作をする私を見て長谷部は首を傾げた。
まさかとは思うけどもしかしてこの意味分かってないのかな?あれ?一応意味が通じるか周りの刀剣達で試したけど大体の子は意味理解してくれたのに。知らないのかな、それとも鈍感なのか。なにあともあれ私にとって誤算だった。こうなったら、もう強行しかないよね。手を伸ばし長谷部の腕を掴むとそのまま引っ張り私の膝に寝かせた。案の定彼は藤色の澄んだ瞳を何回も瞬かせ驚いているようだった。


「あ、あの…!」
「膝枕って言うの。知らなかった?」
「ひざ…まくら…初めて知りました。」
「気持ちいい?後は…こうして、頭を撫でたりすると良いと思うんだけど。」
「…ん、落ち着きます。」


淡い色の髪を手で梳いてやると長谷部は心地良さそうに双眸を細めた。いつも威厳ある彼からは到底想像つかない柔らかな表情に頬を緩める。頭を撫でているといつの間にか彼は深い眠りに落ちていた。
滅多にない一面を見て気を良くした私は偶には彼を甘やかしてあげようと思った。


特別な表情。
(また明日から宜しくね。)
20150411







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