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▼ 薬指にくちづけを



私は我儘なのかな。
近侍の一期には沢山の弟達がいる。彼はいつも通り弟達の面倒を見ていた。そう、いつも通りなのに今日はやけに胸騒ぎがする…子供じゃないのにやきもちを妬いていた。我ながら苦笑いしか出ない。


「どうした、大将。」
「えっ?」
「眉間に皺寄ってるぞ。何かあったのか?」
「わわ、何でもないよ!」
「お、おい…!」

考えに老け込んでいたせいで薬研くんが目の前にいることに気付かず私は素っ頓狂な声を上げた。苦虫を潰した様な顔をしていた私を心配して来てくれたのだろう。そういうちょっとした所に気付いてくれるんだよね、この子は。
眉間をつつかれると変に焦ってしまい薬研くんの声も聞かずその場を去った。


「はあ…。」


溜息しか出なかった。あの子達の目に今日の私は絶対変に映っているだろう。一期に知られてないのは唯一の救いだが他の兄弟達は私の事見てたし察しのいい乱ちゃんはきっと分かっているに決まってる。ああ、次会ったらからかわれるな。


「主…!」


聞き慣れた澄んだ声に思わず背筋を伸ばしてしまった。今一番顔を合わせづらい張本人に声を掛けられてしまった。背後からは息を切らした音が聞こえ走ってまで来てくれたのかと小さな感動が起きる。そんな彼の呼び止めを無下にしたくなく振り向いた。


「どうしたの、一期。」
「薬研から主の様子がおかしいと聞きまして。」
「あ、ああ!あの時は少しボーッとしてて…。」
「………。」


私の答えに一期は黙り、二人しかいない空間は静かな空間と化した。居たたまれなくなった私はどうすればいいのか分からなくなり目線を四方八方に動かすしかなかった。


「審神者様は…。」
「…何?」
「私が弟達の相手をしている時、寂しいのですか?」
「なっ…何でそれを…。」
「時折貴女を見ると憂いを帯びた顔をなされていたので…そうなのかな、と。」


真意を突かれ私はただ驚くしかなかった。
彼は相変わらず優しげな眼差しで此方を見ている。こんなの卑怯すぎる、狡いよ。顔が段々赤くなっていくのを感じながら小さく頷いた。
すると一期は私の手を取り小さく微笑む。


「そうでしたか、それなら言ってください。」
「だって…大人げないじゃない。」
「そんな事ありませんよ。それに…」


「私は貴女のものなのですから。」


そう言って私の指に唇を落とした。


これは忠誠の意。
(それはまるで本物の王子様のようで。)
20150328



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