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▼ 指だけ、そっと



夜も更け、ふと気が付くと月が天辺まで上がっている。俺は毎日の習慣である主の部屋の見張りをしていた。審神者様に忠誠を誓った身、主がしっかりと寝静まるまで居るのが近侍として当たり前であろう。他の連中は過保護過ぎる、恋仲みたいだと吠えているが俺の耳には到底届かない。


俺は今の主…審神者様を慕っているがそれは従者としての思いであり恋等と同じにされてはたまったものではない。周りに茶化されるのは俺自身は構わないがきっと主はお困りになっているに違いない。
どうすれば良いものか、と眉間に皺を寄せ考えていると襖の奥から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「はせべ…来て…。」
「はっ。」


主がこんな夜更けに起きるなんて珍しい。きっと何かあったのだろうと思いつつ襖を開けると目を涙で潤ませ今にも子供のように泣き出しそうな顔の審神者様がいた。
俺は予想外の事態に我を忘れ急いで彼女の元へ駆け寄った。


「主…どうされたのですか?…こんなに目を赤く腫らして。」
「っく…長谷部が…何処か遠くへ行く夢、見たの…。」
「………!」


主から告げられた言葉に俺は青紫の瞳を丸くさせた。この方は俺を思って泣かれている?こんな自分に?前の主…織田信長に使えていた時でさえ味わったことのない嬉しさに胸の内が暖かくなっていく。


「俺はとっくに貴女の物だというのに…泣く必要ないのですよ?遠くへ行くだなんて有り得ない。」
「本当に…?」
「ええ、本当ですよ。」


絶対離れませんと誓った後俺はいつも着けている白手袋を外し審神者様の指を軽く握った。


伝わる体温。
(なんて小さな手なんだ。)
(力を入れたら折れてしまいそうなくらいに。)
20150325




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