不慣れな出来事


「一期、後で私の所に来てね!大切な用があるの!」


そう言って私が用件を聞こうとする前に主は駆け足でどこかへ行ってしまわれた。…はて、私は主の気に障るような事をしたのだろうか?もしや弟達が私の知らぬ間に粗相を…?そればかり脳裏をよぎっていくが思い当たる節がない。


正直な所、私はまだ本丸に来てからそんなに日が経っておらず主殿については詳しくない。すれ違いざまに挨拶、任務の報告をする程度で主に弟達の世話ばかりしているのが現状だ。


「…考えていても仕方無い、行きましょう。」


弟達は遠征に行っており丁度手が空いている。この機を逃したら夜に弟達が寝静まらないと行くことは不可能だ、私は主を探す為に自室を出た。暫く歩いていると縁側に座る見知った顔を見つけ傍に寄った。


「審神者様。」
「わっ、と…一期か。びっくりしたぁ…。」
「も、申し訳ありません…!もっと配慮するべきでした。」
「ううん、気にしないで!ほら、隣座りなよ。」
「…失礼します。」


主を驚かせてしまった申し訳なさに打ちひしがれていると、ふと自分の隣をポンポンと叩く姿が映り少し距離を置いて腰掛ける。今日は天気が良く縁側にいるには心地よい陽気だった。今度、弟達を昼寝させる時にいいかもしれないと頭の片隅で思った。


「今日は気持ちの良い天気ですな。」
「そうだね、良いお昼寝日和。」
「あの、主。先程の大切な用とは…。」
「ああ!そうそう、忘れるところだった!」


私の問い掛けに主は目を見開いた、恐らく忘れかけていたのであろう。短い期間しかいない私でも審神者様の少し抜けているところは知っている。私個人の考えだが完璧な主よりこのような主の方が安心する。面倒を見てやらねば、という使命感に駆られる。それと同時に自分の居場所がある事に嬉しさが込み上げてくる。


「よいしょ、っと。」
「あ、主!?何を!?」


いつの間にか審神者様は私の元へ近寄り、腕を引っ張られた瞬間私の頭は彼女の膝の上にあった。予想外の出来事に動揺しつつ離れようと頭を上げるもお互いの顔の距離が近くなり赤くなったであろう顔を見せないよう元の位置へ戻った。


「何故、このような事を…?」
「ほら、一期って弟くん達の世話ばっかりで誰にも甘えてないでしょ?だからせめて私の前ではお兄さんをやめさせてあげたいなーって。」
「………!」
「いつもお疲れ様、実は弟くん達を遠征に行かせたのはこういうのを見られたら一期は嫌かなと思ったからなんだけど…余計なお世話だったかな?」
「いえ、嬉しい配慮です…こんな姿弟に見せたらら兄の面目丸つぶれですからな。」


主の気遣いに目元が潤んだ。多くの刀達を抱えている身だというのに私にまで気を回して頂いて…やはり今の主に出会えて良かった。この方の為なら命を削ってまで戦おうではないか、そう思った。


今はこの一時を大切に過ごしたい。手を伸ばし主の手を握ると安心感で眠りに落ちそうになった。


いっそ、このままで。
(大将ー、帰ったぞー。)
(あれ?いち兄は?)
(主君ー?)
((……まずい!!))
20150315






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bkm
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