貴方の一番の主


今日は天気がいい。
こんな時は縁側で寝転ぶのが一番だ。
そんなわけで短刀達と日向ぼっこをしようと彼らを探し始めた。


「あっれ、あの子達どこに行ったんだろ…。」


一部屋ずつ隈なく探すも彼らの姿はなく途方に暮れ俯いていると誰かにぶつかってしまった。
ぶつけた鼻を摩りながら目線を上にやると申し訳なさそうに眉を下げる長谷部がいた。


「…申し訳ありません、主。」
「ううん、気にしないで!下を向きながら歩いてたが私が悪いの。」
「しかし…」
「もう、長谷部はすぐに自分を責めることをやめなさいっ!主命です!」


「主命」という言葉を耳にした後長谷部は黙った。彼がこの言葉を使うとどんな事があろうと従うのは長い付き合いの為知っている。知っているから使っているのだが頻繁には使わない。いや、知っているからこそ使えないのだ。

へし切長谷部とはとても有能な男である。
私が命じた任務は完璧にこなしてくれるし身の回りの世話だって丁寧。私の近侍に置いておくには勿体無いくらいだ。
しかし、その代わり彼は自分を省みない主至上主義であり出会った頃からこのスタンスは変わらない。
とある戦場に赴いた時、長谷部は重傷になる程の大きな傷を負ったことがある。その時だって「これは主命だ、主の為なら自分の命なんてくれてやる」と言って一歩も引かなかった。主命とその時から私は誓ったのだ。主命を軽々しく使わない、と。

軽々しく使わないと誓ったものの、長谷部には悪い癖があり私が絡んだ出来事となると自分を責めだすのだ。今回のぶつかったのだって私の前方不注意なのに「俺のせいで」と一点張りになってしまう。
こうなると頑固になってしまうので渋々主命を発動させるのだ。


「…こんな時に使うなんて狡いお方だ。」
「ごめんごめん、許して。ね?」
「元から怒ってなどいませんよ。」


そう言って微笑む長谷部の頭を撫でてあげると長谷部は恥ずかしそうに頬を赤らめた。表情は目を細めており気持ち良さそうである。
この顔が見たいが為にいつも私が謝る時は彼の頭を撫でてあげるのが恒例になってしまった。
うん、今日も可愛い。日々の疲れが飛んでいくような気がする。

長谷部に癒されていると「ところで審神者様は此方に何の御用で?」と話題を振られると私は今までの出来事を思い出しハッとした。長谷部なら短刀達がどこにいるのか知ってるかも。


「そうそう!今日陽気がいいから短刀達と日向ぼっこしようと思ってたんだけど見当たらなくて…。」
「彼らなら只今遠征中ですよ。」
「あ、れ…。」


私が素っ頓狂な声を出すと長谷部はクスッと笑い出し「貴女が命じたのですよ?」と付け足した。
そういえば今朝方お願いしたんだっけ…すっかり忘れていた。
楽しみだっただけに気持ちが沈み項垂れているもある事を閃き長谷部の顔を見た。彼は相変わらず私と視線を合わせない、彼曰く主と視線を合わせるのは不敬らしい。


「ねぇ、長谷部?」
「はい、何でしょう?」
「これから私の日向ぼっこに付き合ってもらえないかな?」
「ええ、主命とあらば…。」
「もう、これは主命じゃないよ。私がお願いしてるの。そうだな…じゃあ次に言うことは主命だからちゃんと聞いてね?」
「はっ。」


何事にも懸命な彼に思わず笑みをこぼし首を垂れた彼に近付き耳元で囁いてあげた。


「今から視線を合わせながら話して?」


暫くの間固まっていたが決心したのかそっと視線を此方に向けた。青紫の瞳が僅かに震えていた。
私はそれだけで十分満足しているが折角日向ぼっこをしようとお願いしたのだ。
長谷部の手を掴み足取り軽やかに縁側へと向かった。


今日は特別。
(ん?審神者ちゃん、今日は機嫌がいいね?)
(えへへー、だって長谷部が…)
(あ、主…!)
20150304



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