アネモネ


白詰草の光忠視点(前作読破推奨)
光忠⇔審神者←長谷部
悲恋、死ネタ(?)要素を含みます。


審神者ちゃんは僕のことを好いてくれている。審神者と刀の関係ではなく女と男として。それに僕は薄々気付いていた。最近やけに彼女が頬を赤らめる回数が増えたりじっと僕に熱い視線を向けていたからである。


「光忠ーっ!こんなにいっぱい野菜が採れたよ!」
「ほんとだ。じゃあ、今日は腕によりをかけて君の為に美味しいもの作らないとね。」
「やった!私光忠の作る料理大好き。」
「もう、そんなこと言われると流石の僕でも照れちゃうなぁ。」


一方、好意を寄せられている僕も審神者ちゃんを意識している。要は両想いなんだよね。でも僕は刀で審神者ちゃんは人間。いくら僕が人間としての姿を授かったとはいえ一線を越えてはいけない、そう頭の片隅で言い聞かせてきた。だからこれからも僕から動く事はないしあの子から告白されたとしても断るつもりでいる。これでいいんだ、そう…これで。罪悪感からチクリとする胸の痛みも何度も味わってきた、もう今更すぎるよ。


そんな僕を尻目に彼女に好意を持つ刀(ひと)が居た。へし切長谷部…長谷部くんは審神者である審神者ちゃんに対して僕には到底真似出来ない忠誠心を持っていた。それと共に忠誠心とは別の感情、恋心を兼ね備えている。最初は僕の勘違いだとばかり思っていたが彼女に向ける視線や僕に対しての態度を目の当たりにして勘違いは確信へと変わった。恐らく察しのいい彼も僕の心中なんて分かりきっているだろう。


今は畑仕事に精を出さなくてはいけないというのに僕の頭の中はこれらの事で埋まっている。はあ…こんなんじゃ格好つかないじゃないか。
隣で一生懸命作業をしていた審神者ちゃんが立ち上がり一人で土弄りをしている長谷部くんの元へ歩み寄った。


「長谷部もお疲れ様!だいぶ採ったしそろそろ休もう?」
「いえ…俺はもう少し続けます。」
「駄目だよ!休むのだって大切な事なんだから。」
「はあ…。」
「…そうだ!それなら私とお茶淹れるの手伝ってよ。それならいいでしょ?ね?」


二人の会話が耳に入った瞬間、妙な胸騒ぎがした。
こういう時の嫌な予感って意外と当たるんだよね。横槍を入れたかったけど僕は色々と言える立場ではなかったし長谷部くんの手を引く後ろ姿を黙って見送るしか出来なかった。


一体どの位の時間が経ったのだろう。
お茶を淹れるにはあまりにも時間が掛かり過ぎだ。
心配になりいてもたってもいられなくなった僕は早足で台所へ向かった。何かあったのは間違いない。それが今僕が予想している嫌な事態だったら…僕は、僕は。


戦慄が走った。
僕の瞳に映る目の前の光景は現実なのだろうか、それとも夢?出来れば後者であってほしかったがそれは叶わない。台所に着いた僕が最初に目にしたものは手首を押さえつけられ長谷部くんに接吻されている審神者ちゃんだった。彼女は気付いてなかったみたいだが長谷部くんは僕の存在に気付いたらしく菫色の瞳を横目に此方を見ている。


僕の中で何かが壊れて割れた音がした。


消えた心。
(もう、楽になって良いよね?)
20150330

アネモネの花言葉:「嫉妬の為の無実の犠牲」「儚い恋・夢」




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