白詰草


※光忠⇔審神者←長谷部
長谷部が報われないお話。


俺は審神者様を心から慕っている。主としてというのも間違いではないがどちらかというと異性としての方が正しいのかもしれない。いつから好きなのかは定かではないが気付いた時にはあのお方ばかり目で追ってしまう。それくらい愛している。
しかし、主には想い人が居た。


「光忠ーっ!こんなにいっぱい野菜が採れたよ!」
「ほんとだ。じゃあ、今日は腕によりをかけて君の為に美味しいもの作らないとね。」
「やった!私光忠の作る料理大好き。」
「もう、そんなこと言われると流石の僕でも照れちゃうなぁ。」


その男の名は燭台切光忠。前の主…織田信長に仕えていた頃から知っていたがどうも俺とは馬が合いそうにもない。向こうは俺と話が合いそう等と言って話し掛けてくる事が多く、いつも鬱陶しいと思っていた。
今は内番で畑仕事をしている最中で主は沢山の野菜が乗った籠を持ち笑顔を向けている。俺ではなく、あの男に。


あの二人は両想いであるがまだ恋仲ではない。お互い奥手なのかは知らないがどちらとも想いを告げていないようだった。端から見れば歯痒い思いをしながら見守り、早く恋仲になってしまえばいいと思う奴がいるかもしれない。だが俺はそう思わずいっその事引き裂いてしまいたいとまで頭の隅で考えてしまう。


「長谷部もお疲れ様!だいぶ採ったしそろそろ休もう?」
「いえ…俺はもう少し続けます。」
「駄目だよ!休むのだって大切な事なんだから。」
「はあ…。」
「…そうだ!それなら私とお茶淹れるの手伝ってよ。それならいいでしょ?ね?」


審神者様と二人きりになれると思ったのと同時に俺は首を縦に振り頷いていた。
目の前に映る笑顔だって今は俺に向けられている。今は俺だけのものだ、あの男のものではなく俺だけの…。そう思うだけで俺の心にかかっていた曇が晴れていくようだった。


二人で台所へ向かうも俺の心は再び曇り始める。主は想い人の話しかしなかったのだ。自分を庇ってくれた時の話や万屋で買い物をした時に髪飾りを買ってくれた話、どれも俺が聞いたことのない…聞きたくない話だった。最初の内は主が楽しそうに話していた為此方も笑顔を向けていたがそろそろ限界が近かった。


「…でね、その時に光忠が…」


ガチャン。
俺は自分の手にお湯がかかった事も気にせず主の手首の自由を奪った。今俺はどんな顔をしているのだろうか、それは俺には分からないが目の前の彼女は分かっている。審神者様は眉を下げて此方を心配そうに見ていた。ああ、俺は泣きそうな顔でもしているのか。


「長谷部…手、冷やさないと…火傷の痕残っちゃう。」
「………。」
「と、取り敢えず手離してもらえないかな?」
「…嫌だ。」
「え?」
「この手を離したら貴女はまたあの男の元へ行ってしまわれる。どうしたら…どうすれば俺は審神者様の瞳に映りますか?あの男より好きになってもらえますか?」
「……な、に。」


「貴女の事を慕っております。」
そう告げた瞬間俺は彼女の唇を奪っていた。俺達の帰りが遅く心配して見に来た眼帯の男を横目で見ながら。



先手必勝。
(叶いそうもない恋なら無理矢理奪うだけ。)
20150323

白詰草の花言葉:「私を見て」「私を思って」




prev next

bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -