天使と愛の日


(安定の時系列謎のお話)
アメリカのバレンタインデーは日本のものとはだいぶ違うとは聞いていた。というかチョコレートチョコレートしてるのなんて日本ぐらいだ。アメリカには「バレンタインに告白しちゃおう」とか「義理チョコは廃止しようぜ!」とかそういう感じではなく、男性から女性へチョコレートや花束、カードなどを贈る『愛を伝える日』という文化が浸透している。
 …つまり…あの天使という名の悪魔が大暴れする日でもあるのだ!
「あらナユタ、どうしちゃったのソワソワして」
「ミセス!ミセス!…今日バレンタインデーじゃないですかー」
「ええそうね」
「あいつ絶対大暴れするじゃないですか…エンジェルが!」
「あー、そうね。あなたへの愛で大暴走しそうねぇ〜」
 いやそれが大問題なんだよミセス。
 エンジェルのアホは私をストーカーレベルで追いかけ回してくれている。しかもそれを隠さずに振る舞っている。本人に隠すつもりがないのだ!
 他のクレイジーキャビーはエンジェルの行動を窘めているのだが(「あのザックスまでツッコんでいるなんて天変地異が起きるかも」とビックスバイトさんが言っていた)当のエンジェルは「だって俺ナユタに惚れてるんだもんよ!」とどこ吹く風といった感じだし、他のキャビーの皆さんも結局なんだかんだ「あいつはああいう奴だから」と諦め気味だ。待って!諦めたらそこで試合終了なんだ!
 エンジェルは他ドライバーと比べても常識が通用しない、別次元に生きてるレベルの存在である。いや夢の世界の住人ナイツすらドン引きなんだから間違いなく異次元の存在だ!
 あいつと比べりゃウエストコーストの皆さんは平和な人達だし(アクセルさんにナンパされるのは嫌だが)、スモールアップルのアイスマンさんなんて比較的静かな分まあまだ良いんだ。
 問題は奴の暴走ぶりにあの恐ろしいスラッシュさんすら手がつけられなくなってるらしい。
 つまり私は今別次元の世界からやってきた侵略者から襲われているに等しいのだ!ああ恐ろしい!そんな悪魔をバレンタインデーに野放しにしてしまったらどうなることやら…!
「エンジェルの愛が怖いのねぇ〜。でも今日バレンタインデーよ?エンジェルはどこか行くのかしら?」
「いや知らないですけど」
「ナユターーーーー!」
 …来たよ!!!あいつが!!!
 エンジェルがビュイック・リヴィエラで突進してきたので慌ててミセスの後ろに隠れる。あぶねーな!!
「あらあらエンジェル、危ないじゃない?」
「ナユタの姿が見えたからな!ミセス!」
「もう、なんなのエンジェル!」
 こっそりミセスの後ろからひょっこりはん(古)したら、ずずいとエンジェルが迫ってくる。
「今日バレンタインデーじゃん!これ、俺と一緒にドライブ行かねーか!?」
 ズイと目の前に突き出されたのは1枚のチケット。しかも…
「あ、あああ、あのホテルのチケットじゃん…!」
 しかも私の憧れのホテルのスイーツビュッフェに使えるタイプのやつじゃんか!超人気で取れないんだよ!!
「あらあら、エンジェルよく取れたわね」
「すっごい…あんたよくもまあ…」
「いやー俺も去年までは縁のないイベントだと思ってたよ、でもな!ナユタがめっちゃ行きたそうにしてたじゃん!?それじゃあ取るしかねぇってな!!」
「え、エンジェル…」
 縁が無いって女に困ったことのない男が何を言うんだ!
 こういうとこだぞ! なんか腹立つ!
 するとミセスは私にこっそり耳打ちした。
「ねぇナユタ、これはチャンスよ!」
「え?どういうことです?」
「このままエンジェルとデートしてきちゃいなさいな♪」
「えっ!?」
「ミセスナイスサポート!!」
「いやいやいや!?てかあんた乗るなエンジェル!」
「良いじゃん!この日は最高の日だぜ!なんてったって…」
 エンジェルはキラキラと目を輝かせながら言った。
「好きな子をたまらなく愛でる日なんだからな!」
「……はい!?」
 思わず耳を疑ったがエンジェルは嬉しそうにギラギラとした目の輝きをたたえながら笑っているだけだ。
 助けを求めようとミセスを見たが、いつの間にかミセスは己の愛車に乗ってしまっていた。待ってー!
「ナユタ!エンジェルとデート楽しんできてね!」
 そう言ってクレイジーダッシュで行ってしまった。
「おい!ナユタ!」
「え!?な、何!?」
「やっぱりお前は最高に良い女だぜ!最高のデートにするからな!!」
 ああもう!!このクレイジーガイめ!! ミセスの車が見えなくなるまで見送った後、ひょいとエンジェルは私を助手席に乗せた。
「ま、待ってエンジェル」
「どした?」
「…フェアレディは駐車場に置かせて」
 …もうこうなったら乗りかかった船だ。
「…分かったわよ!こうなったら付き合ってやるわよ!」
 私もエンジェルの愛に応えてやろうじゃないかっ…!半ばヤケクソである。
「お!ナユタ、いいねぇそのノリ!」
「うるさい!分かったわよ、今日はエンジェルと一緒に居てあげるわよ!」
「へへっ!そう来なくっちゃな!!勿論ナユタのことはエスコートしまくるからな。楽しみにしててくれよ♡」
 そう言うとエンジェルは嬉しそうに笑ったのだった。ああもう調子狂うなぁ……。
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