夕暮れの街角


 夜の帳が落ちた。さーて、グリッターオアシスのクレイジータクシーの本稼働よ。
「行ってくるわねあなた♪」
「ああ、行ってらっしゃいハニー」
「行ってらっしゃいママー!」
 Muah!
 世界一愛してる夫とキスを交わし、子供たちに見送られながらタクシーのエンジンを蒸して、私は車を発進した。

───

「さあ〜…ナユタ!来い!」
「…エンジェル?」
 ビュイック・リヴィエラのボンネットの上で腕を広げながら何かを待ち構えるエンジェル。
 その見る向こうはあの居住区。
 あの子…ナユタが住む所だわ。
「エンジェル?」
「お!ミセス!」
「何してるの?…って大体想像は付くんだけれどもね」
「居住区に入るのはだめだけど、ここにいるのは良いだろ?」
 待ち伏せね。考えたのね?…でもそれじゃ仕事にならないわよ。
「エンジェル。あの子来たばかりなんだから、今日荷解きで忙しいんじゃないかしら?今日は来ないか、タクシー使う余裕もないんじゃないかしら。」
「あっ…そうかぁ〜。」
 エンジェルは肩を落として落胆した。……気持ちは分かるわよ、私だって本当はもう少しお話したかったしね。
 そして、エンジェルとしては珍しく沈んだ顔を私に向けてきた。
「…一応ミセス、聞いておきたかったんだけどさー。あのエリアに行くのは禁止されてるけど、もし俺が拾った客があのエリアに行きたいって言ったらどうすれば良いんだ?」
 そういえば、そうねぇ。私が禁止してるからと言って、それじゃ仕事にはならないわね。
「そうね、それなら連れて行っても良いわ。」
「…!そっか、分かった!」
 目に見えて嬉しそうにするエンジェル。でもちゃんと釘は刺しておかないとね。
「でもナユタを探さないで、すぐ居住区を出るのよ?」
「分かった分かった!んでさ!そこにばったりナユタがいたら!」
「そうね、それは仕方がないわ。」
「よし!分かった!」
 もう喜んでるの隠そうともしないわね。何とか抜け道を探そうと必死ね?…全くもう、分かりやすいんだから。
「でも私が言いたいことは変わらないわよ?無理矢理キスもハグもだめ!無理矢理タクシーに乗せるなんて以ての外だからね!」
「分かった分かった!」
 本当に分かってるのかしらね?でもまあ、私の言い付けも守りながらも何とかナユタに会おうとする努力は認めるけれどもね。
「このままここにいてもつまらないでしょ?仕事するか、他の楽しいことを探したら?」
「そうだなミセス!よし!まずは切り替えて仕事始めっか!ナユタを見付けたら仕事止めにして口説きに行きゃ良いしな!」
 そう言ってエンジェルはTAXIの看板を愛車に掲げた。そして…
「ナユタ♡会いに来てくれよな!Uhmuuah♡」
 居住区エリアに投げキッスをしてエンジェルは車を発進する。
 私も愛車を発進し、繁華街の方へと向かった。 

 ちょうど出た繁華街。
 ビックスバイトがちょうどお客を乗せていたわ。
「あの居住区のエリア行ってくれ!」
「分かった」
「…!」
 エンジェルの顔つきが変わった、と思った瞬間には。
「エンジェルっ!!」
 エンジェルは、ビックスバイトの車の前に飛び出してしまった!
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