ナユタのスーツケースを取り戻すためにエンジェルを探して街中の方へ飛ばしてみる。
するとすぐ当人は見つかった。しかし。
「…!ビックスバイト!」
「あら、噂の当人登場ね。」
そこにはエンジェルだけじゃなく、ミセスヴィーナスにザックスもいた。
…色々と面倒な状況だ…。
「おいビックスバイト!…後ろ!あの娘いないじゃねぇか!どこで降りた!?」
案の定ナユタのことを聞いてきたが、答えられる訳がない。
「おい無視すんなよ!」
「エンジェル。トランクを開けろ。」
「え?なんだよいきなり!」
「早く開けろ」
なんだよいきなり、と言いつつビュイック・リヴィエラのトランクが開かれる。
その中には奴の私物のスケートボードやインラインスケートの他に、ピンク色のスーツケース。それにはNayutaと書かれたタグが付いている。これか。
「じゃあこれはもらってく。それじゃ」
スーツケースを取り出し、エンジェルの思考が追い付かないうちに退散しようとした。
が。
がっ、とスーツケースが動かなくなった。
「それ…ナユのだろ?」
案の定エンジェルがナユタのスーツケースを掴んでいた。…面倒なことになりそうだ…。
「となるとこれは俺の荷物だ。俺が運んでく!」
「ダメだ。」
「なんでだ!」
「彼女がお前に会いたくないって言ってるんだ」
「嘘だろ!」
「ひどい怯えようなんだぞ。お前の所に荷物を忘れたって気付いて絶叫して、もうその荷物捨ててでもお前と接触したくないと言っていた。」
正直、こうなるならやっぱりナユタには荷物を諦めてもらった方が良かったかも知れない、と少し後悔が過っている。
「嘘だろ、信じられねぇ」
「お前あんなに拒絶されてたのに、まだそんなこと言うのか…」
とんでもない自己中なのは知っていたが、ここまで諦めの悪い男だとは知らなかった。
「まさか…ビックスバイト!お前もナユに惚れちまったんだろ!」
「…は?」
いや待て…どうしてそうなるんだ…。
「俺からナユを遠ざけようとしてるってことは…そういうことだろ!」
「違う!」
エンジェルが叫ぶもんだから、俺も怒鳴り返してしまう。
そしたらなんだかざわざわと周りがうるさくなってきた。
…周りの奴らが見てる…!
ドライバー同士の揉め事となれば、好奇の目を向けられることは当然か…!
「エンジェルもう離せ!周りの奴らが見てる!」
ドライバー同士で痴情のもつれを起こしたとか噂されたら色々耐えられない。
しかしこいつのぶっ飛び具合は異常だった。
「聞いてくれよ皆っ!俺の愛しいナユタを掻っ攫おうとしてるんだぜこいつ!」
なんと周りに吹聴し始めたのである。勘弁してくれ!
「エンジェルっ!!馬鹿なこと吹聴するなっ!」
「俺は周りの奴らが何言おうと気にしないね!」
「こ、この恥知らず…!」
ここまで恥知らずだったのかこの男は!?
「…おいミセス」
「あらどしたの?」
「俺達はこの茶番をいつまで見続けなきゃならねーんだ」
「そうねぇ…」