会えぬ互いとタロットカード


 トロッテばーちゃんが呆れた顔をしていたが、それも気にしないことにした。
「んでよばーちゃん!俺はどうすればナユタと結ばれることができるんだ!?」
「落ち着きなエンジェル。…それもリーディングしたいってことかい?まあ良いよ。やってやろうじゃないか。」
 トロッテばーちゃんはまたカードを切って、また十字に2枚並べた。そして言う。
「エンジェル、さて。このタイプの占い方は、1枚目はその行動を取った結果。2枚目はその結果に対してどう対応を取るか、が本来の意味だ。簡単に原因と対策、と私ゃ言ってるがね。…開けてみようか。」
 ばーちゃんが下にある1枚目をめくった。柄はガイコツのカード。これは俺だって知ってるぞ!
「死神ぃ!?」
 なんてこった!死神じゃん!!
「…エンジェル。あんた、これ逆位置だよ。」
「逆位置!?」
「死神の逆位置は、まあ良い意味だ。状況がほぼ180度変化して、生まれ変わったような状況になる…って暗示だね。」
「なんだよそれ!マジか!!良い意味じゃん!!」
「なんでそう言えるんだい?」
「だって決まりきってるだろ!?この鬱屈した状況からナユタに出会えて超ハッピーになれるってことだろ!?」
「あんた、ポジティブ過ぎるねぇ。」
 トロッテばーちゃんが呆れて言う。でも俺はそんなの関係なかった。
「良い意味ならそれで良いんだよ!で、2枚目は!?」
「あー、はいはい。めくるよ。どう対策するかだね。」
 横になっている上のカードをばーちゃんはめくった。なんか男が吊るされていた。
「吊るされた男の正位置か。苦しみを通して、実りを得られる…って意味になるかねぇ。」
「実りを得られる!?つまり俺とナユタはハッピーエンドになるってことか!」
「どうだろうね。」
 これは良い意味のはずだ!
 よし!やったぞ!俺の運命は明るいんじゃん!!
「…エンジェル。あんた前半聞いてたかい。さっきも言った通り、苦しみが最初にあるよ。吊るされた男の正位置が示すものは“試練”だ。忍耐を試される…。」
「試練だって!?そんなの全く問題ねーよ!きっと試練はナユタを探し出すことだ!そうに違いないぜ!」
「果たしてそのことかねぇ…。」
 ばーちゃんが変な目で俺を見てきた。なんだよその目!
「まあなるようにしかならんかね。所詮は占いさ。まあその子があんたの運命の相手かどうかは分からないね。」
「えー!ラスベガス一の占い師なのにかよ!!」
「そうさね。これはあくまで私があんたに教える運命はこうだよって話だ。あんたとその子が結ばれるかどうかなんてのは、あんたとその子次第だ。」
「大丈夫だ!俺が好きなんだから、ナユタだって俺を好きになるに違いねぇよ!」
「あんたの思考回路って本当にどうなってるんだい。…まあ良いけどさ。」
「ばーちゃん!ばーちゃんがナユタが結局運命の人か分からねぇんだってなら、ナユタのチップ返してくれよ!他の金やっからよ!」
 俺は間違いなくナユタが運命の相手なんだと分かるけど、ばーちゃんは結局本当に運命の人か分からないらしい!なら払わないなんてしねーけど、それぐらいはしねーと納得いかねぇ!大事なナユタ本人も同然のチップなんだからよ!
「…エンジェル、よくお聞き。運命の相手と出会えたからって、必ずしも幸せな結果になるとは限らん。」
「え!?何言ってんだばーちゃん!運命の相手と出会えたなんて幸せなことしか無いだろ!?」
「それがそうでもないんだよ。私が知ってる限りの運命の関係って、相手に依存し過ぎて勝手に相手に期待して、勝手に失望する。そんな関係もいっぱい見てきたさ。」
「はぁ?ナユタはそんな奴じゃねぇぞ!絶対違うね!」
「人は運命なんてものに振り回されて、勝手な想像と思い込みで相手との関係性を決めるもんさ。運命の相手だからといって、その関係があんたを絶対に幸せにすると決まった訳じゃないってことを理解しときな。…本当に幸せになれるかは自分次第だよ。」
 …なんだそれ。そんなのありえる訳ないだろ…?てか占い師とは思えないこと言ってんな、ばーちゃん。
「…とりあえず返金は受け付けてないよ」
「ちゃんと料金分は払うぜ!ただの金なら言わねーよ!俺が返せって言ってるのはナユがくれたチップだ!!」
「あんたねぇ…

じゃあ、私がチップをあんたに弾むのはあんたが好きだからかい?」
「!」
 そりゃばーちゃんは俺のこと好きだろうと思う。でも絶対ばーちゃんはそんな目で俺を見てるはずはない。
「勿論私はあんたのこと好きだけど、勿論恋愛的なもんじゃないよ。楽しませてくれた礼としてチップを弾んでるんだ。
チップくれたから好き、だなんてそれはあんたがその子に恋しちまったから思ってることさ。」
 ばーちゃんにこんなこと言われて、俺は衝撃的だった。
「…こ、これか?」
「ん?」
「ばーちゃんの言ってることに180度の衝撃受けちまったぜ…!これが死神の逆位置か!?」
「いや早すぎだろ起きるの。」
 早速俺の状況変わっちまったらしい!?びっくりだ!
「…まあ、どうせもらうなら彼女からのきちんとしたプレゼントが良いだろ?」
「あ!確かにその通りだ!」
「そういう関係になれるかは、結局あんた次第でもあるよ。ま、エンジェル。あんたには色々世話になってるからね。健闘は祈ってやるよ。」
「おう!ありがとなばーちゃん!」
 俺はばーちゃんに礼を言って、店から出て愛車に飛び乗った。
 
 道路を進んで行くと、スーパーマーケットから出てくる小さいオープンカーとすれ違った。
 乗ってる運転手はピンクのパーカーを目深に被っていたが、すぐに行っちまったので、俺は特に記憶にも残さずそのまま客の呼ぶ声の方に行ったのだった。
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