天使と愛の日


「お!ちょうどいいタイミングだ!」
「ここは…」
 グリッターオアシスの湖地帯。
「ナユ、後部座席に二人で座らねぇ?」
「…良いけど。よいしょっと」
 助手席を乗り越えて後部座席に座る。エンジェルも同じように乗り越えた。
 すると座ろうとした瞬間に肩を抱き寄せられた。
「え、あ……エンジェル?」
「良いから良いから」
 肩を抱かれた状態で湖の湖畔に二人で座る。日は暮れていく。湖も空も辺り一面がオレンジ色。
 …グリッターオアシスの夕焼けって、こんなに綺麗だったのね。いつもかっ飛ばしてばかりだったから、あまり見る機会なかったかも。
「綺麗だな」
エンジェルは湖を見ながらしみじみと呟く。
「そうだね」
 肩を抱いてる手はそのままで、エンジェルはじっと私を見る。
「…ナユ」
 そう呼ぶ声はとても甘い。いつものからっと元気ぶりとは真逆だ。
「な、なに?」
「………。」
「……う……」
 いやなんでじっと見つめているのだこの男は。待って、日本人は目を合わすの苦手なんだ。
 …しかしでもエンジェルから目を離せない…!いや反らしたら負けな感じもする。 
 するとエンジェルはグイと顔を近付けてきた。
 いや待て!キスはダメだ!
 そう思ったのだが…、その予想を外れ、私の顔の横に来た。
「…ナユ、俺は息できないんだぜ?」
「は?」
「君のことを考えてたら、息が止まっちまう。…溺れてるんだ」
「え、あーと…」
 エンジェルが囁いてくる。これは口説いてる、口説いてるのは私でも分かる。
 さらに肩を抱く手に力が籠る。まるで逃がさないぞと言われているようだ。いや実際そうなのかも…。
「でもナユは俺が溺れそうだったら、迷わず飛び込んでくれんだろ?」
「…まあ」
「それなら俺は君に溺れて良いよな?な?」
「え、あ、あの」
「ナユ…。俺は、君に溺れてたい」
 やばいな、普段のエンジェルは二人称“お前”って感じなのに今は“君”って聞こえる…!
 そしてゆっくりと顔が近付く。やべ!今度こそキスされる…!と思ったのたが。
「……。」
 エンジェルよ。その顔はなんだ。あれか!?キス待ち顔か!?
「…エンジェル。何やってんの?」
「…おいおいMy dear。ここは分かってんだろ?」
「何が?」
「…んあー!だめか。ナユからキスしてもらえばNo problemだと思ったんだけどなぁ」
 な、なに、私からキスさせようとしてたのかこいつ…。
「もー何考えてんのよあんた…」
「…俺とキスするのは嫌?」
「無理矢理されんのが嫌なのよー」
「んじゃ無理矢理じゃなかったら嫌じゃないってことだな?」
「そ、そういうことじゃないじゃん!」
「…ナユは俺とキスしたくない?」
 肩を抱かれたまま、熱のこもった眼差しで見つめられて、そしてこんなことを囁かれる。…顔から火が出そうだ。
 こんな風に迫られて平気でいられるか!くっ…と心の中で悪態をつくが、たぶん表情は赤くなっているに違いない。
「その顔見れば分かるぜ?良いんだな?」
 ああもうこいつ調子に乗っちゃって…!私はきゅっと目を閉じる。
 …結局逃げない突き飛ばさない私も、何か期待してるんだろうか…。
「ナユ…」
 熱のこもったエンジェルの声に囁かれる。近い。
 うわー!来る!来る!
 しかしその瞬間。

バッシャーーーン!!

「!?」
 いきなり水飛沫の音。湖から何かが現れた!?
「あ…ベッシーだあ!?」
 ベッシー。グリッターオアシスの湖に現れるというUMAだ。噂には聞いていたが、まさか出会うとは……。
「ピィィィ♪」
 襲われる!?と思ったがなんか声が嬉しそうだ。いや襲うような危険生物だったら多分捕獲されてるもんな。
「ねぇエンジェル!ベッシーベッシー!!」
 まさかのUMAの出現に興奮を隠せない!エンジェルも絶対興奮するはずだ!
「…ああ、そーだな」
 絶対はしゃぐだろうエンジェルが乗って来ない。どうしたんだ!
「エンジェル!?どうしたの、ベッシーだよ!?」 
「ピィー♪」
「…空気読めよなベッシー」
 何かエンジェルがボヤいている。
「ベッシーだあ!」
「本物よ!」
「こりゃ撮らねぇと!!」
 あのUMAの出現とあって周りは大騒ぎだ。
「ピィ♪」
「ベッシー…」
 エンジェルは悔しそうな顔をしてベッシーを見ている。
「どうしたの?」
「なんでもねーよぉ…」
「ほら、写真撮っとこうよ!」
「おう…」
 こいついつもノリノリで撮るだろうにどうしたよ?
「またの機会にお預けか…覚悟してくれよなナユ…」
「ピーーー♪」
 エンジェルが何かぼやいていたようだが、ベッシーの鳴き声や周りの皆さんのざわめきで聞こえなかったのだった。
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