聖夜にまつわるエトセトラ


「ほらほら、お料理冷めちゃうわよ。ほら!パイもあるんだから!」
 ミセスが子供たちを誘導していく。
 ビックスバイトさんもザックスさんも、エンジェルの友人二人も料理の方へ向かった。
 …き、気を利かせなくて良いよミセス…!
「皆あっち意識してるし、二人っきりの世界になっちまっても良いぜ?」
「……良い訳ないでしょ」
「そんな恥ずかしがり屋なナユタも可愛いぜ?」
 し、しつこい奴め。あー、こいつと目合わせらんない…。
 そう思っていると、スマホの通知音が鳴る。目線を反らしたくて思わずスマホを取り出した。
「おい俺と一緒なのにスマホなんて見るなよ?浮気か?」
「…誰が何送ってきたか分からないでしょ」
 てか浮気って付き合ってもないじゃないか。スマホを見てみると送り主はアクセルさんだった。
『よおナユタ、アメリカに来て初の聖夜はどうだ?』
「は?アクセルかよ!」
 勝手に見んな!そして勝手に怒るな!
『ミセス・ヴィーナスの所でクリスマスパーティしてます』
『何だ予定あるのか?まあ良いか。なら12/25にグリッターオアシスで俺とデートしねーか!?今から行けば間に合う!』
 この文面が届いた瞬間私の手からスマホがなくなった。
 エンジェルに取り上げられたのである!
「おいアクセル…!何考えてんだあの野郎…!」
「ちょ…返して!」
 スマホを取り返そうとするがかわされる。そして何か勝手に文面を書いている。
『ナユタは俺と12/25もニューイヤーも過ごすんだよ!ちょっかいかけてくんじゃねぇ!!by Angel』
 勝手に書いてんじゃねぇ!!
「よしもうアクセルのことはブロックな」
「ちょっと勝手に!!」
「なんだよ俺よりアクセルが良いのかよ!浮気だぞ!」
「いやそれは絶対にないわよ!」
 「さらっとアクセルの扱いがひどいな…」とビックスバイトさんのぼやきが聞こえてしまった。いやあの人ドライバーとしては尊敬してるけどいつも口説いてくるんだもんよ。エンジェルも大概だが。
「とにかく、アクセルさんにそんな気ないから!」
「んなこと分かってるよ!でもムカつくもんはムカつくんだ!」
「…嫉妬深いにも程があるわ」
「俺をここまで嫉妬させるのはナユタだけだよ!」
 …はぁ。こいつ、なんでそんなに私の事好きなんだ。
 そして相変わらず視線は気になる。絶対にチラチラ見てるな皆。
 あ〜恥ずかしすぎる……!!
 もう料理も取りに行けねーや恥ずかしくて。もう疲れてきた。
 しかしこいつは空気も読まず肩を抱き寄せてきた。
「来年は二人で過ごせると良いなー、ダチや皆と過ごすのも良いけどさ」
 …アメリカじゃクリスマスは家族や友人と過ごすものではなかったっけか?
「アメリカじゃクリスマスって家族と過ごすものじゃないの?」
「だから俺達来年は家族になってるだろ」
 …。いや待て!あんたまだ18歳じゃないか!!来年でも19歳だ!!結婚できる年だとしても早すぎる!
「…ま、まあ来年のこと考えても仕方ないわね」
「はぐらかすなよー」
 こいつの気まぐれさや飽きっぽさを考えると来年どうなってるかなんて分からない。…思ってて悲しくなってきた!
 気まぐれでストーカーされてたなんてたまったもんじゃない!!
「ナユタ?聞いてくれよ?」
 とかなんとか思ってたらこいつは私の手を取って跪いてきた。
「エンジェル?」
「一年に一日。クリスマスなんかより、俺の人生にとってはナユタと過ごせる時間が何より重要なんだ」
「……あんたのモットー、一度きりの人生思いっきり楽しまなきゃ意味がないんじゃないの?」
「ああ大事。だってナユタといられるのが楽し過ぎるんだからな。」
「……。」
「俺の心はいつもナユタのものだぜ?絶対に諦めない。ナユタが俺の事を好きになってくれるまでな!
…なんてな!かっこつけすぎたか?」
 …いや、かっこつけすぎだ。私の胸はドキドキしっぱなしである。…相っ変わらず口説くのが上手い奴だな本当に…!
「…そんなことないわよ」
 だから素直に褒めてやる事にしたのだった。
「…ナユタ…!」
「あんたがそんなこと言うと思わなかっただけだし!」
「へへへ……」
 めちゃくちゃ嬉しそうに、頬を赤くするエンジェル。
 照れてるとこ悪いが……私はもうそろそろ限界だ……!恥ずかしくて耐えきれない……!私だって顔赤い気がする!
「あー…もう、これ!」
「え、何?」
 恥ずかしさとか振り切るようにツリーの所に置いといたプレゼントを押し付ける。
「え、まさか…クリスマスプレゼントか?」
「…そうよ」
「え!マジかよくれんの!?」
「喜んでくれるかどうかなんて知らないけど!」
「開けて良いか?」
「…好きにして」
 ビリビリと裂かれる紙の音。
「…これって、服か?」
 こいつの手にあるタンクトップ。
「暑いから着てないなら、涼しい素材の奴でも着ればって思ったのよ…!」
 まあユニ○ロのエア○ズムだ。冬の時期に買う人間など珍しいだろうが、常に上半身裸上等の男ならあげても良いだろうと思った。
「おいおい、俺の為に選んでくれたのか?」
「か、買ったと言ってもオンラインだからね!」
「にしても俺の為に買ってくれたのは変わらねーじゃん♪よっと」
 ばっとこいつはタンクトップを着てくれた。
「…おっ、ナユタの視線が急に合ったな♡」
「た、たまたまよっ」
「裸のままナユタをドキドキさせるのも良いけど、こうしてナユタと見つめ合えるのも良いよな〜」
 前半の言ってることが自覚あったのかよ変態と言ってやりたかったが、奴の青い瞳に見つめられたら言いたい文句なんて吹っ飛んでしまう。
 ああもう…惚れた弱みか?…なんでこう格好良いんだよこいつは…!調子乗るから絶対に言わないけど!
「…ねえエンジェル」
「ん?」
「…来年もさ、一緒に聖夜を過ごしても…良い、と思う」
「おう!絶対に一緒に過ごそうな!!」
 ああもう。こいつの笑顔を見るとドキドキする。私もだいぶ重症なようだ。
 エンジェルと見つめ合う。恥ずかしくて目をそらしたいけれど、こいつからどうしても目を離せない。まるで磁石みたいだと思う。私も奴も引き寄せられてしまうのだ。
 と、思ったら突然皆の方に奴は駆け出した。
「皆〜!!見てくれ!ナユタからのプレゼントだ!これはナユタから逆プロポーズだっ!!」
 何を言い出してるんだこいつは!!
「逆プロポーズなんかしてないから!!」
「恥ずかしがんなよ」
「違うっ!」
 ああもう!嬉しいやら恥ずかしいやらでどう反応して良いか分からない!!
 子供達まで「やったねぇ!」なんて笑ってやがる……!!もう!本当にさいっあくだ!!
「いや服プレゼントしてもらっただけじゃ…」
「だろ〜?良いだろ〜?」
 だめだこりゃ、って感じでステファンソンとビクターが見てくる。
 こいつの異常なポジティブ思考はもう手が付けられない!
 …ま、まあ来年も…あいつと一緒にいられる事を願うのも良いかもしれないけどね。絶対に口出さないけど!
「服やっただけでプロポーズとかお前には何もやらねぇ二度とだ」
「んだよザックス!羨ましいのか!」
「ザックス、今こいつには話しかけない方が良い…」
「はいはいエンジェル!はしゃぎ過ぎちゃだめよ!」
 なんだかんだ本心では、悪くはないとか思ってしまうのだった。
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