夕暮れの街角


「おい!エンジェル!」
 突然ビックスバイトの声がした。あの居住区エリアから戻って来たのかしら?速いわね。
 ついでに新しい客を乗せてたのか人が降りている。
「ビックスバイト!」
「先に言っておくが、あの居住区エリアでナユタには会えなかったからな!付き纏われる前に言っておく!」
「そっかー…」
「まあ来たばっかりだしね。荷解きまだしてるでしょ。」
 エンジェルはがっくりと肩を落としたわ。そんなに会いたかったのね……。
「全くあんな妨害二度とやるなよ…ザックスになんか特にやるなよ!?殺されるぞ!」
「それは保証できねーなぁ」
「止めなさいエンジェル!本当に命がいくつあっても足りないわよ!」
 いくらナユタが好きだからって、ザックスにまでちょっかい出すのは止めて欲しいわ!
「皆応援してくれよ?俺は負けられないんだ。ビックスバイトもナユに惚れてるっぽいんだ、それが!」
「エンジェル!!それは誤解だっつってるだろうが!!」
「だってビックスバイト!お前俺とナユタの結婚を邪魔したじゃねぇか!」
「あれはお前が怖がらせてたからだろ!?いきなり結婚させられそうになったら怯えるだろ!」
「怖がってねぇよ、俺に惚れてるんだよきっと!!」
「どこがだ!怯えてただろうが!」
 やれやれ、この調子じゃ本当に前途多難ね。ビックスバイトに苦労かけてしまうわ。
「ミセス、道中すっごいビックスバイトがエンジェルの愚痴を言いまくってたんだが…何かあったのか?」
 ビックスバイトが新たに乗せていた客が聞いてきたわ。
「まあ見ての通り、エンジェルが恋に狂っちゃったのよ」
「え!?惚れて結婚しようとしたのか!?」
「ちなみに今日会ったばかりの子なのよ」
「今日会ったばかりの相手に結婚迫ったのか!?えぇ〜…」
 ドン引きしてるお客。まあ気持ちは分かるけど……。
「でもその子はエンジェルを怖がっているのよ。私も会ったけど相当怯えてたわ」
「だろうなぁ…」
「とりあえず…はいはいそこまでにしてね二人とも」
 喧々囂々と言い争いを続けるエンジェルとビックスバイトの間に割って入る。
「ほらもうエンジェル!ちゃんと仕事するって決めたじゃない!ビックスバイトにそんな突っかからないの!」
「ミセス…」
「…わーってるよ!よし、ビックスバイト、ミセス、皆!じゃーな!」
 流石に今日三度も私に割って入られたら分が悪いとは思ってるみたい。エンジェルは早い内に引き下がった。
 そう言ってエンジェルは私達にに別れを告げ、タクシーを転がすのを再開した。
「おう!頑張れよエンジェル!」
「応援してるぞ!」
 取り巻き達がそうエンジェルに声をかける中、ビックスバイトがすっかり疲れた顔をしていた。
 エンジェルの車が見えなくなった直後、ビックスバイトの弱音が聞こえてきた。
「…もー勘弁してくれ…」
「ビックスバイト、大丈夫?」
 すっかり顔色の悪いビックスバイトに駆け寄ると、普段表情を変えないビックスバイトが信じられないほど泣きそうな顔をしていたわ。
「もう勘弁して欲しい、もう俺しばらく引き籠もりたい。恋に狂ってるあいつ怖い。」
「しっかりしてビックスバイト!貴方のドライビングを心待ちにしてる人がいっぱいいるんだから!」
「……分かってる。でも今日ほど仕事するのが嫌になった日はない。
俺はナユタへ気なんてないって何度言っても聞いてくれやしない…」
「本当に困ったわね。エンジェルには気を付けるように言っておかなくちゃ。」
 ビックスバイトの苦労はまだまだ続くようね……。エンジェルってばナユタに近付く男を尽く恋敵だと思っちゃってるみたい。エンジェルの恋を応援してあげたいけど……ビックスバイトも心配だわ。
 あ、ここに残ってる取り巻き達にも言っておかなきゃね。
「貴方達もエンジェルの恋を応援したい気持ちは分かるけど、ビックスバイトに苦労をこれ以上かけないでね?本人はナユタにそんな気はないって言ってるから!」
 ナユタを巡ってビックスバイトとエンジェルが三角関係らしいだとか、変に噂が流れては可哀想だわ。
「分かったよ、ミセス…」
「ビックスバイト、元気出してくれよな!あんたのドライビング好きだし!」
 そう取り巻き達が口々にビックスバイトに励ましの言葉をかけている。
 そんな彼らにビックスバイトは力なく頷いた。
「…ありがとうな、みんな……」
 まだまだ問題は山積みみたいねぇ…。
 エンジェル、これじゃあなたとナユタのハッピーな恋も遠いわよ?
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