夕暮れの街角


「…はぁ〜、あの子は最高に幸せかぁ…へへへ…」
「エンジェル!迷惑行為だからね!」
 クレイジータクシーにトラブルは付き物だけどね…。
「次は絶対にこんなことしちゃだめよ?ビックスバイトだったから流してくれたけど、ザックスだったら血が流れる所だったわ!」
 まあザックスはすぐに態度に出すから良いけど、ビックスバイトでも問題なのよね。彼は態度に出すのが苦手な方だからね…。
 その分ビックスバイトには苦労をかけることになってしまいそうだわ。
「あんまりビックスバイトに負担をかけちゃだめよ?」
「分かった分かった!」
 もう。本当に分かってるのかしらね…?
 I know! I know!なんていっつもエンジェルはよく言ってるし。
「とりあえずエンジェル、仕事しましょ?」
 とりあえず一旦問題は落着したから、エンジェルに仕事をするように促しておきましょ。
「おう、そーだな!俄然やる気が出てきたぜミセス!」
 そう言って今度こそエンジェルはビュイック・リヴィエラに乗ってエンジンを蒸し始めた。
 さてさて、私もお仕事開始しなきゃね。
 …でも、エンジェルってば随分とんでもないことを企んでたわ。

 私がお客をナイアガラまで送り届けた時。
「楽しいひと時をね!」
「ありがとなミセス!
って…あれ?あれってエンジェルだよな…?」
「あら?」
 お客が降り際、何かに気付いたわ。
 エンジェル?エンジェルが何かしてるのかしら?

「なあ、誰かあの居住区行きたい奴いるか〜!今なら!無料で連れて行くぜ!!」
 ……。あの子ったら、本当に何やってるのかしら?
「おいマジかよ!」
「聞いたぜ、好きな子に会いたいんだろエンジェル!」
 続々と群がるお客達。全く!客に助けてもらってナユタに会いに行こうとしてるのね!?
 ああもう、これは私が止めなきゃ!
「エンジェル!もうなんてあからさまなの!」
「ミセス!」
「全くもう、あそこが目的地のお客を志願させようなんて…」
「客が行けって言うなら行くしかねーだろミセス?」
「考えたつもりかしら?」
 こんなにあからさまじゃ、困ったものね。
 周りの取り巻き達にも説明しておかなきゃね。
「皆、エンジェルの恋を応援してあげようって気持ちは嬉しいわ。私も応援してあげたいもの。
でも、その子は日本からここに来たばっかりで、エンジェルに惚れられることがどれほどここでは凄いことなのか分からなくて、あまりの勢いに怯えてしまってるの。
エンジェルのこの勢いのまま、あの子にアタックし続けたらあの子に嫌われちゃうわ。この禁止令はエンジェルのためでもあるのよ。」
「まあミセスが言うなら…」
「仕方ねぇよなぁ…」
 私の説明に理解を示してくれたみたいね。
「皆良い子たちね。助かるわ。」
「良いよミセス。エンジェルの為だもんな」
「ちぇ〜」
「ちぇ〜、じゃないわよエンジェル。ほらタクシー転がすなら真面目にやりなさい!」
「へいへい」
やれやれ……。でもこれで一安心ね。エンジェルがこの調子では、あの子に怖がられちゃうわ。
「エンジェル!頑張れよ!」
「応援してるぜ!」
「ありがとな皆!」
「っていうかどんな子なんだよ」
「その子に会ったらエンジェルがどれほど君のことが好きなのかとか、良い男なのかとか説明しとくよ!」
「つーかエンジェルが惚れてんのはどんな子なんだよ」
「なんかな、黒髪で可愛い日本人なんだってよ!」
「ほうほう、そりゃ美人だろうな」
「エンジェルが惚れてる位だからな!」
「その子の写真とかないのか?」
「ねぇんだよ〜、写真撮っときゃ良かった!そしたら写真にいっぱいキスできたのにな〜!だから俺、彼女が渡してくれたチップにこうしてキスしまくるしか今はねぇんだよな〜…smack♡」
 そう言って取り出した小袋に入ったチップにキスをするエンジェル。
「く、くれたチップにキスなんて…!」
「おいおい、どんだけゾッコンになってるんだ…!?」
「おいおいお前ら、恋しちまったら本当に世界って変わっちまうんだぜ?俺が好きになった子なんだから、その子が最高の女に決まってるだろ!?だから俺の気持ちをもっと示さねぇとな!
お前ら頼むぜ!俺がどれほどあの子が好きなのかを伝えてくれ!」
 普段勝手気ままだし、私達を困らせることも多いけど。でもどこか憎めないエンジェルの情熱は人を変えていくわ…。
「やっぱり日本人は天使みたいだから、エンジェルの惚れる気持ちも分かるなぁ」
「俺たちも応援するぜエンジェル!」
「ありがとなみんな!」
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