夕暮れの街角


「止まってくれー!!」
「エンジェル!?」
「うわ!!」
 グォンッ!!というブレーキ音。…ブレーキが間に合って良かった…!
 発進しようとしたその瞬間、エンジェルが目の前に飛び出して来た!危ないだろっ!!
「エンジェル!どけ!急に飛び出すな!!」
「なああんた!あの居住区エリア行きたいんだろ!」
「あ、ああ」
 俺の怒鳴る声も無視してこいつは客に詰め寄っていた。
「俺もちょうど用があるんだ!俺の車に乗ってくれないか!」
「ええ!?」
「エンジェル!?お前何言ってる!?」
「ビックスバイト!頼む!その客譲ってくれ!!」
「アホかお前は!!」
「エンジェル!何をやっているの!やめなさい!!」
 ミセスがいて良かった…!
 ドライバー同士の客の奪い合いはよくあることだが、既に乗せた客を奪った例はない。
「ええ…俺取り合われてる???」
 ツッコミどころ満載の客の発言だが、まあそうなるよな…。
 …この客の目的地は例の居住区エリア。ナユタが住んでいる場所か。しかしミセスはこいつに出禁を言い渡してたはずだ。
「ミセス、あの居住区の辺りはこいつ行くの禁止だったよな?」
「ええ、でも仕事にならなくなるのは問題だから、拾ったお客がそこに行きたいなら仕方ないとは言ったのよ。」
 …くそ、それを利用してあのエリアに行こうとしてるとは…。
「でもエンジェル!これはルール違反よ!止めなさいっ!」
「エンジェル!営業妨害だぞ!やめろ!」
「頼むぅぅぅ!!!」
 ミセスも止めているにも関わらず、こいつは引き下がろうとしない。
 困ったな…ミセスなら上手くコントロールできると思っていたのに…!
「おいエンジェルどうしちまったんだ?」
 この客もクレイジータクシーの常連客。他のドライバーとも顔見知りだ。
「…こいつの惚れた女があんたの行きたいエリアに暮らしてるんだ」
「は!?惚れた!?エンジェルを惚れさせた女がいるのか!?」
「ああそうだ。…で、ただでさえうるさいこいつは更におかしくなっちまったんだ」
「エンジェルを惚れさせるなんて…どんなとんでもねー女なんだ!?」
 …。まあいきなり叫び出すとか確かにとんでもない女だったな…。
「ミセスぅぅぅ!ビックスバイトを説得してくれぇ!」
「だめよエンジェル!あなたの言ってることの方がおかしいのよ!」
 全くミセスの言うことを聞こうとしないどころか暴走しまくるエンジェル。
 だめだ、完全にのぼせ上がってやがる…。このままじゃ埒があかない!
「よおエンジェル!好きになっちまった子ができちまったんだってな!?」
 すると客が突然エンジェルに声をかけ始めた。
「おっ!そーなんだよ!日本人でな、もう最高にbombshellなんだよっ!!」
※bombshell=爆弾=セクシーなかわいこちゃん
「おいマジかよ!そんな日本人いるのか!」
「もうだからっ!たまらなく会いたくて会いたくてたまらないっ!」
「まじかよ、じゃあその女に会いに行きたいってことだな!?」
「ああ!」
 客はどんな意図でエンジェルと話してるんだ…。
「今日は俺、ビックスバイトのタクシー乗りたい気分だからエンジェルの願いを叶えてやれねぇが…
でもエンジェルに惚れられたその子は最高に幸せだな!
大丈夫だよ!俺応援してるぞ!」
「うおう!ありがとぅっ!!」
「じゃあ行くからな。」
 一刻も早く離れたくて、俺は車を飛ばした。
 …客はエンジェルから逃れる為に敢えておだてる作戦に出たってことか…。
「…すまん助かった」
「いやぁ〜。でも、あんなに女に狂うエンジェルって珍しいからなぁ」
 いつもは女を狂わせる側なのは見ていても分かる…。あのエンジェルがあそこまで狂うとは想定外だ。まさか既に乗った客を奪いにかかるとは思わなかった。
「そこまで惚れさせた子ってのも見てみたいなぁ」
「やめといてくれ、本人相当怯えてたんだ…」
2/4 prev list next
「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
×
- ナノ -