「とにかく。エンジェルはいきなり押し過ぎよ。まずは知り合いになるところから始めなさいね!」
「知り合いー?もう知り合ってるじゃん。なあビックスバイト?」
「いや俺から見ても知り合いですらないと思うぞ」
「マジかよー…うう、ミセス分かった。」
しぶしぶ、という様子でミセスの言葉にようやく頷くエンジェル。
こいつは本当にストーカーで捕まりそうだから心配だ。
「まあ、きちんと段階を踏んでいけば、可能性はなくもないわよ!
私はエンジェルにもあの娘にも、ハッピーでいて欲しいしね!」
この状況ですらエンジェルの恋を応援する気でいるミセスは寛容というか、流石というか、何と言うか…。胆力が違い過ぎる。
エンジェルを上手くコントロールする自信があるからだろう。
「ナユタ、ボーイフレンドも今まで一度もいたことないそうだから、優しくしてあげなきゃだめよエンジェル。おっぱいが大きいとかも言っちゃだめよ!」
…え?ボーイフレンドいたことがない…!?
「20歳で!?」
エンジェルと声がハモってしまった。なんてこった。
「…あの娘20歳なの…!?16歳ぐらいかと思ったわ!」
「やっぱミセスもそう見えたよな!?16歳ぐらいに!」
ミセスもナユタが20歳だと思わなかったようだ。まあ俺達も子供だろうと思ってたんだが…。
ナユタもこんな所でまさか「20歳で処女」が共有されるなんて思いもよらなかっただろう…。
「なんか色々事故物件だろその女」
「…いや…アメリカとは感覚違うんじゃないのか…多分…」
ザックスのぼやきにそうは言ってみたが、日本の感覚なんて知らない。
「だから一人暮らしが出来たのね…なんか親御さんの許可なんて取らずにアメリカで一人暮らしするって言ってたからそんなこと16歳にそんなこと出来たかしら!?って心配しちゃってたのよね!どう見ても国外から来てるし、貴方大丈夫かしら?って何度も聞いちゃったわ!」
アメリカは未成年である18歳未満が一人でアパートを借りるなんてできない。
国外から来た人間なんて尚更だろう。
ただ、現状の心配はそこではない。
「そっかー…ナユは初めてなのかぁ…ってことはワンチャン俺が初めての男になれるってことだな…?」ニヤニヤ
エンジェルの暴走が更に加速しそうである。
「エンジェル!無理矢理はだめだからね!」
ミセスとしても20歳だと知ってたなら多分交際経験一度もなしは話さなかったに違いない。
「キスやハグとか直接的なものがダメなら…投げキッスやウインクとかは大丈夫だな!よし!俄然燃えてきたぜ!待っててくれよなMy dear♡」
「…何度も言うけど嫌がることはしちゃダメよエンジェル」
「分かってるって!」
…。馬鹿のくせになんでこういうことは頭が回るんだこいつ…。
流石にミセスも呆れ気味だ。
彼女は早い内に処女ではなくなるのかも知れないと思えば、本気で哀れだ。
ただただ、その女が後程とんでもない爆弾を抱えていたことが発覚するなど、知る由もなかった。