あの子のために取り決め


「それであなたの伝言に対する返事だけど…」
「うんうんうん!?」
「あなたの気持ちを好きなようにというなら、付き纏わないで欲しいですって。」
「え、マジで?」
「だろうな…」
「まだ付き纏ってねーじゃん!」
「まだやってないから問題ないんじゃない!」
「そうよエンジェル、そこが問題じゃないの。」
 こいつ全然分かってないぞ!

「エンジェル、好きになってしまったら突っ走ってしまう気持ちはよーく分かるわ…私だって主人と結婚するって決めた時はどれ程止められない気持ちだったか。
でも、相手の気持ちは考えてあげなくちゃ。エンジェル、あなただってそういう事ができない訳じゃないでしょ?」
 …。いやミセス。この自己中にできると思っているのか…?
「エンジェルだって悪い子じゃないって話しておいてあげたわ。」
「助かる!ミセス!」
 エンジェルは喜んでるが、まあそれで本人が良いと言ってくれるかは別問題だとは思うがな…。
 というかミセスはエンジェルの恋を応援する気なのか?
「…でも、まあとりあえずあの娘の住宅地周りにはしばらく近付いちゃだめよ?」
「え!なんでだよ!迎えに行こうと思ってたのに!」
 その禁止令が出るなら良かった。少なくとも彼女に近づけない為に常にエンジェルを監視しなくちゃならないということはないだろう。
「安心できる所がないんじゃ可哀想よ。
とっても怯えてて、“交際なんて考えたこともないのにいきなり事を進めてきたから怖かった”って言ってたわよ」
「えー…マジかよ…」
「ほら見ろ、お前がやろうとしてることは立派なストーカーだからな!」
「…お前が女に現抜かそうが別に構わないが、そのせいでドライバーで逮捕者出したら俺達も仕事が成り立たねぇ。」
 …この忠告をするためにザックスは残ってたのか。
 まあ道交法なんて考えてないクレイジータクシーのドライバーが、それ以外の罪で捕まるとか恥ずかしいとは言える。
 同業者の俺達まで同じような目で見られるのは営業に影響するな…。
「ストーカーなんてひでぇな。そうじゃなくて愛だ!」
 …。自覚がないのがまた恐ろしい。
「逮捕されたらぶっ飛ばすからなお前…!」
「その前に逮捕されるような真似はさせられないからねエンジェル!」
 頼むミセス、止めてくれ。俺では無理だ。

「まず、街に出てきたあの娘に話しかけるぐらいは良いわよ。」
「! 街に出てきたなら良いんだな!?」
「でもいきなりキスしたりハグしたりしちゃだめよ?」
「えー!なんでだよ!俺の愛を表現できねぇじゃん!」
 なんて即物的な。
「あ!キスもハグもだめでもホテルで〇〇〇〇はOKだな!?」
「もっとだめに決まってるだろうが!!」
 ザックスじゃないが本当にこいつをぶっ飛ばしたくなってきた。
 まさかのいきなりホテルとか何を考えてるんだ!
 というかキスもハグもしないそういう行為って難しくないか。
「どうしてナユタと仲良くなるのにホテルが必要なの?」
「俺の愛を表現するためだよ!」
「だめよエンジェル!いきなりホテルでとかじゃなくて普通に声をかけなさいって言ってるのよ!」
 ミセスが至極真っ当にエンジェルを止めようとしていた。
「言葉でもいっぱいあるけど、言葉だけじゃ足りないんだ!俺はただこの溢れんばかりの愛を伝えたいだけだってのに…!」
 こいつ本当に頭おかしいな…。あいつの恐ろしい幼馴染にやっぱり報告しとくか!?
「いきなりホテルなんて行ったら怖がられるに決まってるじゃない!まずは普通の会話から始めなさい!」
「ちゃんとゴムは着けるし!」
「そういう問題じゃないからねエンジェル!」
「…逮捕される前に一発ぶん殴っとくか」
「やめなさいザックス!」
「…ちっ…」
 めちゃくちゃ物騒なことを言い出したザックスを止めるミセス。ザックスにエンジェルと忙しいかも知れないが俺にこの状況を裁ける気がしない。すまないミセス。
 だが残念ながら今のエンジェルは本気でぶっ飛ばしても大人しくならない気がする。あのスラッシュに半殺しにされても構わないと言い出したからな…。
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