慌てて俺も車に飛び乗り追いかけるが、もう既に見失ってしまった。
くそー、元レーサー早すぎんだろ…!
しかしあのスピードに追いつけなくてもどこかで鉢合わせる可能性もある。
一旦TAXIの看板を取り下げてナユタ探しに専念することにした。
しかしあっちも追いつけないように動いてるらしい。街のあちこちを探しても見つからない。
あちこちを探している内に、見覚えのある2ドアピックアップトラックと5代目キャデラック・ドゥビルが目に入った。
この車はあの二人だ!ちょうどいい!
「ミセスー!ザックスー!」
ミセスヴィーナスとザックスがちょうど向かった先に停まっていた。
そんな二人に手を振って声をかけた。
「あらエンジェル、どうしたの?」
「…。」
ミセスは返事をしてくれるが、ザックスは仏頂面でこっちを見てくるだけだった。相変わらず無愛想だよなー。
まあ今はそれは関係ない。ビックスバイトとナユタを探さないといけないし!
「なあ!ビックスバイトを見かけなかったか!それで女の子乗っけてなかった!?」
「ビックスバイトが?」
「実はすっげー素敵な娘に出会っちゃってさぁ…
ポニーテールでさ!サンバイザー着けてて!んで黒い長い手袋してて、小柄な日本人の女の子!」
「日本人?」
「あ、後な…日本人の割になかなかのメロンだった」コソッ
「メロンって、お前…」
「エンジェル、それセクハラよ?」
ミセスに咎められたし、俺自身セクハラは分かっていたが、日本人にしては胸がデカかった。だから特徴としてあげといた。
だが、俺が一番惹かれた所はメロンじゃない!
「最初は地味で大人しそうな娘だと思ってたんだけどさ…あの娘、俺のドライビングにキラッキラな笑顔で喜んでて…そんな笑顔に俺はもうヤラれちまったぁ…はぁ…」
そう、あのキラッキラな笑顔!
溜息をつきながら、ナユの笑顔を思い出してときめきに身震いする。
そしたらザックスから「うげ…」という声が聞こえたが気にしない。
「あらあらエンジェル…あなたその娘に恋しちゃったの?」
「そう!そうなんだミセスっ!」
流石ミセス話が分かるな!
「惚気話なら他所でやれ。」
「いやこっからが大事なんだよ!
それで惚れたから手の甲にキスしてさ〜」
「あらっ!もうキスしちゃったの!?」
「本当は唇同士でしたかった!手でも我慢したんだぜ!」
「馬鹿は手が早すぎて困る」
「うるせぇなザックス!んでその娘に結婚しよう!みたいに言ったんだよ!」
「…結婚!?」
ザックスがびっくりしたように言ってたがもう気にしない。
「そしたらあんたにまさに困ってるって言ってもう、照れちゃってさ〜!」
「いやそれ本当に困ってたんじゃねぇのか…」
「それなのにさ!ビックスバイトが掻っ攫いやがったんだよ!」
「逃げたくもなるな。」
「こうしちゃいられなくて今まさに探してるんだ!てな訳で見かけなかったか!?」
「…まあこっちの方ではまだビックスバイトは見かけてないわねぇ」
「そっか。ザックスは!?」
「見かけなくて良かったとすら思った」
「ひでぇ!」
残念ながら収穫はなかった。それどころかザックスはそんなことまで言ってきやがる。
「あ、そうだ。名前はナユタって言うんだ。
もうさー、すげえんだぜ?彼女、俺をこんなにも焦らしてくんだよ〜。」
「…焦らす?」
「どんなに口説いても、口が上手いですねぇとかかわしてくるんだよ。
でも焦らすのにビックスバイトの車に乗ることはねぇよなぁ、追いつけねぇよ!」
それを聞いていた二人。
ミセスは苦笑しながら、ザックスは訝しげに声をかけてきた。
「話からして彼女、結構びっくりしてたんじゃない?」
「話からしてその女がお前を好きだと言える要素があるのか?」
「は?」
二人は何言ってんだよ?
「いくら好きだからっていきなりキスなんて、早過ぎるわよ〜!」
「お前にそんな風に言い寄られてるなんてかなり不幸な女だな…」
「なんだよー!ミセスもザックスもビックスバイトと同じようなこと言ってきやがって!」
好きならキスしても良いはずだし、言い寄られて不幸なんてことあるか?
しかし、彼女が俺に残してくれた何よりの証拠がある。
「でもきっと彼女だって俺のこと好きだぜ。なにせそんなこと言いつつチップくれたんだからな…」
もらったチップを見ながらうっとりとする。
「…そいつも律儀によく払ったな。俺だったら一発ぶん殴ってチップだって払わねぇ」
「ふふふ、チップを彼女からの贈り物だと思っちゃうぐらい好きなのねぇ」
そんな会話をしていたら、ブレーキ音が響いた。
ブレーキ音の主は初代シボレー・カマロ。
ビックスバイトがそこに現れた。