朝のグリッターオアシス。
夜のネオンは消え、代わりに輝くのは朝陽。
「…なんか楽しー事ねーかなー…」
普段、グリッターオアシスは夜の方が客は多いけれど、今日なんだか胸騒ぎがして朝に出てしまった。
特にやりたい事があった訳でもないのになー。
ハンドルに足をかけ、綺麗な青空を見上げる。
「─しょーがねっ!」
楽しい事は待ってたって来てくれない。
タクシー転がそ。
そしたら楽しい事が思い付いたり見つかるかも知んねーし。
って言うか、楽しい事見つかるまでは仕事するって決めてたじゃん、俺!
車にTAXIの看板を掲げ、発進した。
「Hey,cabbies!」
「おっしゃ、早く乗れよ!」
客から聞いてみたりしてみっか。
今の客の目的地、パックス・ロマーナへ。
飛行機が頭上スレスレを飛んで行く。
その下をなんか仰け反っている奴がいる…
あれでビビってんのかー。スーツケース持ってるから観光客だな。
ブレーキを踏んで、パックス・ロマーナの前へ停める。
「ありがと!あんた良いドライバーね!」
「次もっとスゲー技見せるぜ!じゃ!」
チップを受け取って後部座席から人が降りていく。
さーて、次の客はどこ…
「…へ、Hey!Taxi!」
お、早速。
呼ばれた方に向く。
「乗れよー!」
いつものように叫んだら、…あれ、この子さっきの観光客じゃん。
見た所アジア人だな。
おいおい、さっき飛行機見て仰け反ってたじゃん!?
大丈夫なのか?間違って呼び止めたんじゃねぇの!?
ポニーテールにした真っ黒な髪にピンクのラインのサンバイザー。ピンクの迷彩柄のシャツに短パン。
ただ、それよりも目立つのは真っ黒なタイツに真っ黒なロンググローブ。
なんでそれ着けてるんだろ。
女の子は急に黙ってしまった。怖じ気づいたか?
…ちょっと悪いんだけど、こんなに特徴的でも大人しくて地味そうな感じだ。
うーん、かわいいんだけどなー。
…あ、スタイルはなかなか良さそう。良いメロンだ。アジア人じゃ珍しいかも。
「おーい」
「…」
「おーい!」
『ひゃ、ひゃいっ!?』
ヒャイ?何処の国の言葉だ?
「どこ行く?乗れよ!」
「い、良いんですか!?」
呼び止めたのはそっちじゃん。…まさか戸惑ってんのかなー。
大人しくその辺の大人しいタクシーにしといた方が良いんじゃねぇの?
まあ呼ばれた以上は乗せてくけど!
「そっちが呼んだんじゃん!遠慮すんなよ!」
「それではお言葉に甘えて…あ、トランク借りて良いですか?」
「お、良いぜ。俺の荷物多いけど」
トランクを開けて、すぐに入れりゃ良いのに何かボーッとしてるらしい。
スケボーもローブレも入れてあるけど、そのスーツケースぐらいは入ると思うけどなー。
「…おーい、大丈夫かー?」
声をかければ、その子は慌ててトランクを閉めた。乗る気はあるらしい。
「い、いえ。大丈夫です」
「調子悪いなら病院連れてくぜ?旅行なら良くある事だしな!」
「あ、旅行じゃなくて…住むんです」
え!?
「住むの!?そんなんで住めるのか!?」
こりゃ驚きだ!スレスレの飛行機にもビビってるレベルなのに!
「す、住むんです…長年の夢が…あるからっ」
「ん?夢?」
夢、か。どんな夢だろ。
16歳ぐらいにしか見えないから、カジノで一攫千金って感じには思えねぇけど…
一体大人しそうなこの子が、グリッターオアシスで何すんだろ。想像つかねー。
…でも、俺の想像つかない事だったら面白そう。
「そーかぁ、頑張れよお嬢さん」
「は、はいっ…」
「困った事があったら言ってくれ!」
まあ助けるぐらいは出来っかな。楽しみが増えるのは良い事だし。
「じゃ、何処まで?」
「あ、ここまでお願いしたいんだけれど…分かる?」
女の子が目的地の紙を見せてくる。
少し郊外、都会と観光地の境目辺り。あー、そういやあの辺りマンションあったな。そこに住むのか。
「おー行ける行ける。おっしゃ楽しもうぜ!」
いつものように、一気にアクセルを踏んだ。
「おおう!」
聞こえる悲鳴。んー、特別サービスで“安全運転”した方が良いかなー。
「おおお…っ!」
スレスレで車と横切れば、新たな悲鳴。
うーん、クレイジータクシーじゃ当たり前なんだけどなぁ。
これも無理か?
すると前方混雑。跳んだ方が良いな!
「ちょっと込み入ってんな?」
…この子は叫びそうだな。予告しとこ。
「お嬢さん舌噛むなよ!」
ハイドロのスイッチを打つ。
そうすれば車はホッピング。目の前の混雑を越えてゆく。
「うはあああっ!!」
…やっぱり叫んでるなぁー。
こんなに怖がってるなら…仕方ない、特別サービスするか。
「大丈夫かお嬢さん、“安全運転”も出来るけど?」
彼女は怯えてるんだろうなー、と思いながらハンドルを掴んだまま、振り向いた。
そこにいたのは…
「いいえ!このまま!」
前のめりで、激しく輝く笑顔の彼女。
…え?
怖いんじゃ、ないのか?
あの悲鳴は、悲鳴じゃなくて、歓んでいた声だったのか?
思わずポーッとなった。
「ちょっ、お兄さん!前!」
「っ! わりっ!」
俺としたことが前方不注意!車をホップさせる。
「おおおおおっ!」
バックミラーを見る。
…叫びながら、あの輝く笑顔。
あの大人しそうな顔が、一気に変わる。
…この子、超良いじゃん…!
左胸が、大きく跳ねた。
「いやー、ビビらしてわりぃな!普段はこんなミスしないんだけど」
「いやぁ…気を付けて下さいね」
「まー、ぶっ飛ばしても良かったけどなー」
「ぶっ飛ばしちゃうの!?」
「でもテンション下がるだろ?やっぱギリギリに避けるって所にスリルがあんだよお嬢さん!」
「あっ、それ分かります!」
あの笑顔を見せる彼女なら、分かってくれるだろう。
「分かってくれる?分かっちゃう!?」
「分かりますよ!」
今日俺は、運命に出逢ったらしい。
いやー、人生って分からねぇな!
さっきまで何か楽しい事ないかなって思ってたのに。
「嬉しいぜ、あんたに出会えて!ほらよ!」
レバーを一気に変え、轟音を上げて横滑り。
…歓んでくれるか?
「ほわぁぁぁっ!!」
キラキラの笑顔は爆発しまくる。
俺の心臓が早鐘を打ちまくる。
たまんねぇ…!
後なかなかのメロンもタクシーが動く度にぷるぷるしている。むしゃぶりつきてぇ…。
「マジでヤバイじゃん…!」
もうバクバクが止まらない!
彼女を俺のものにしちゃいたい!てかする!
よし!まずは口説き落として…それでプロポーズしちまうか!
絶対喜ぶはずだ!