天使という名の悪魔


 …あれ、多分ここまだ目的地じゃ…
「お、お兄さーん?まだ目的地じゃ…」
「…なあ、あんたここに住むんだろ?」
「…はい?」
「運命に感謝だな!これが旅行だったらきっと俺達遠距離だったんだ!」
 青年はこっちを向くと急に私の手を掴んできた。
え!?何事!?
「俺、エンジェルって言うんだ。名前教えてくれよ?」
 エンジェル…意外な名前だなあ。天使とか。
「あー…ナユタ」
「ナユタ!良い名前だな!よろしくな、ナユ!」
「でどうしたの急に車停めて。」
「ナユに惚れた」
「…はい?」

 この人、急に何言ってるんだろうか。
 あれか、パリピのリップサービスだなうん。
 絡められた指を外そうとする、が外した傍から絡められる。厄介。
「あーお兄さん、口達者ですねぇ」
「俺本気だから」
「いやー私そう言うの慣れてませんでして」
「慣れるさ、すぐ」
 何か知らんが、その青い瞳は先程よりもさらにギラギラとした輝きを増し熱烈に私を射んばかりに見つめてくる。

 だけどどう考えたって、1日で会った人間に惚れたから1日で付き合おうなんておかし過ぎる。
 この会って数分で、惚れる要素はどこにあった!?
 言っとくけど私彼氏いない歴=20年=年齢なのよ!?
 惚れたと言われても信頼できない。
 というかごめんなさい上半身裸パリピ男とか初彼氏としてはハードル高過ぎますマジで

「あー…私の気持ちもお構いなしに随分とグイグイ来られますね」
「俺が好きなんだから、ナユだって俺の事好きになるに決まってる」
 何処から来んだよその自信はっ!!
 こりゃごめんなさいしてもそう簡単には行かないかも知れない。

 …ん?何か顔が近…
 ぎゃあああっ!
「ひぃっ!あんた何すんのよ!?」
「避けるなよ、キスぐらい良いじゃんナユ」
「良くねーよ!」
「ディープなのは流石にまだしないし良いじゃん!」
 そう言う問題じゃない!
 会ったばかりの人間に、惚れたからって…き、キスはないいいいい!
 しかも口と口の奴ううう!

「じゃこっちなら良い?」
「あちょっと!」
 手袋を外された。突然の事に驚いていたら。
 チュッ
 響くリップ音。
 手に…キスして来やがりました…

 …前言撤回。
「…困っている事、言って良い?」
「おう、言ってくれ!」

「今まさにあんたに困ってるわよっ!!!」
 天使の名だが、こいつは絶対天使じゃない。
 良い人そうなんて思ったのが間違いだった。
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