天使という名の悪魔


 他の車とは比べ物にならない勢いで飛ばして行く。
 この時点で十分クレイジーだ。

 …!?
 この人、片手運転…!
 なんてこった、このスピードで片手とかマジでクレイジーやわ!

 あー!他の車!近い近い!近付けるな!と思いきや。
 スッ、とぶつからず通過。
「おおお…っ!」
 これがクレイジースルーか…!
 そりゃ金出したくなるわね。出さな。

「ちょっと込み入ってんな?お嬢さん舌噛むなよ!」
 ガッシャ、と音と共に車は宙を…
 !? 本当に飛んでるぅぅぅ!
 飛び跳ねる車体は無数の車を越えて行く。
「うはあああっ!!」
 飛んでるっ!感動っ!

「こっち渋滞してるなー、あっち行くか!」
 …あっちへ…行く…?
 青年はハンドルを切った。…反対車線へですと!?
「うおおおおおっ!?」
 良いの?良いの!?反対車線!?
 あちらから車が向かってくる。
 しかし青年は動揺もせずハンドルをさばく。
「ひゃいっ!」
 当たりそうで当たらない距離をよぎる。
「うひっ!」
 向かってくる車を相も変わらずスレスレで避けていく。
「ふぉあっ!」
 すっごいや…!こんな走行も許されるとか…!
 は、早く自分の車手に入れたいぃぃぃっ!!
 思わず前のめりになっていた。

 興奮に身を任せていたら、不意に声をかけられる。
「大丈夫かお嬢さん、“安全運転”も出来るけど?」
 青年は運転したまま余裕そうに振り向いていた。
 あー、もう余裕なのね!?ウラヤマ!
ってか歓んでますよ、私!
「いいえ!このまま!」
 この興奮をせっかく味わってるのに!
返答が意外だったのか、青年は驚いた顔をしていた。
「ちょっ、お兄さん!前!」
「っ! わりっ!」
 車は再び飛び跳ねた。
「おおおおおっ!」
 クレイジータクシーと言えど余所見運転はいかんな。心にメモメモ。

「いやー、ビビらしてわりぃな!普段はこんなミスしないんだけど」
「いやぁ…気を付けて下さいね」
「まー、ぶっ飛ばしても良かったけどなー」
「ぶっ飛ばしちゃうの!?」
 ヤバイよ道交法。
「でもテンション下がるだろ?やっぱギリギリに避けるって所にスリルがあんだよお嬢さん!」
「あっ、それ分かります!」
 ギリギリを避けるスリル。客として乗っていても体感した。
「分かってくれる?分かっちゃう!?」
「分かりますよ!」
「嬉しいぜ、あんたに出会えて!ほらよ!」
 ガチャッ、と言う音。その直後轟音を上げて車は滑り出す。
「ほわぁぁぁっ!!」
 ド、ドリフトっ!クレイジードリフトだっ!!
 うわあああこんなのトーキョーでやったら捕まっちゃううう!
 これを毎日のように出来る?…最高じゃんそれっ!!
「マジでヤバイじゃん…!」
 青年は何かを呟いていた、が何がヤバいかは分からないのでスルーした。
 何かヤバかったんだろう。

 激しい刺激に恍惚としていたら。
「うわっ!」
 車は急にブレーキして路端に停められた。
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