早朝の教室。
いつもは話し声や笑い声で騒がしい場所。
それが今では、清涼とした空気が満ちる無音の空間となっている。
不思議な気持ちになりながら、私は席に着いた。
いつも寝坊ばかりするのに、たまたま早く目が覚め、いつもより早く登校した。
ちょっとした気まぐれだったのだが、これから早く来るのも良いかもしれない。
私は無人の教室の雰囲気が気に入った。
しばらくはぼんやりと空気に浸っていたのだが、やがてそれにも飽きてきた。
誰もいないのだが、少し周りを気にしながら、鞄の中のデッキケースを取り出した。
M&Wというカードゲームがある。
それに使う自分のカードをデッキと呼び、デッキケースはそれを収納する小さな箱だ。
戦うことは決闘、決闘する人間を決闘者と呼ぶ。
私は珍しい女決闘者だ。
実力もそこそこだと自負している。
机の上にカードを広げ、デッキの調整を始めた。
数日前の決闘の敗因はカードバランスだ。
魔法カードを入れすぎたために、モンスターが不足し、死闘の末負けてしまった。
私は頭を悩ませながら、あれこれと減らすカードと必要なカードを選別している。
「ふん、クズカードばかりだな」
「うひゃあっ!」
突然頭上から降ってきた声に、私は奇声をあげてしまった。
あわてて顔を上げると、男子生徒に見下ろされていた。
「ククッ…なんだその声は」
「えっ…いや、その」
今日は非日常なことばかり起きる。
声の主は、有名人の海馬瀬人だった。
他人とかかわることを嫌がるあの海馬瀬人が、声をかけてきたのだ。
彼と話すのは初めてだった。
「貴様たしか名前だったな」
「う、うん」
「…ハイビートデッキか」
海馬はチラリとカードを見ただけでデッキ内容を当ててしまった。
「すごい…」
「フッ、当然だ」
思わずこぼした私の言葉に、海馬は機嫌をよくしたようだ。
彼はにやりと笑って前の席の椅子を私と向かい合わせにして座った。
予想外の彼の行動に内心動揺したが、平静を装う。
「校内の決闘者は把握しているつもりだったのだがな…」
「隠してるわけじゃないんだけどね。自分から言わないから」
「そうか」
それ以上海馬は何もいわなかった。
私も話すことが無いので、沈黙が流れた。
お互い口を開かなかったが、嫌な空気ではない。
することもないのでカードの選別を再開する。
「これは不要だろう」
「え?」
再び顔を上げると、海馬は眉間にしわを寄せている。
決闘者なら誰もが憧れる存在の海馬。
そんな彼がささやかではあるが自分のデッキにアドバイスをくれている。
早起きしてよかったと心の底から思った。
その後もいくつもアドバイスをくれ、私のデッキは完成した。
「貴様、楽しそうだな」
「だって決闘好きだもん!」
「ふん、おめでたいことだな」
冷徹。誰とも関わらない。
そんなふうに周りから言われている海馬。
それに感化され、勝手な先入観を抱いていたのだが、思い込みは簡単に崩壊した。
だって、もしそれが本当だというのなら、目の前にいる彼は誰なのだ。
「人が増えてきたな」
舌打ちが聞こえた。
言われて初めて、他にも生徒が来始めている事に気がついた。
意識していなかったが、海馬と二人っきりだったのだ。
私は今頃になって急に恥ずかしくなった。
顔が熱い。
あわてて顔を伏せて、早急に話を切り上げようとした。
「ありがとう。海馬君のおかげですごく助かったし、楽しかったよ」
「ふん、ただ感想を述べただけだ」
震える指でデッキを鞄に戻す
椅子の足が床をこする音がする。
海馬が立ち上がり、座っていた椅子を戻したのだろう。
「そそっかしいやつだな。1枚忘れてるぞ」
海馬の長い指が、カードを指し示す。
きれいな手だった。
+
熱があるわけでもないのに、ぼんやりとしてしまってその日の授業には全く集中できなかった。
教師の熱弁も脳に届かないまま、ただの音声として流れていく。
私の頭の中には今朝の海馬のことしかなかった。
落ち着いた声。
長い指が、カードに触れる。
意地の悪そうな笑い方。
今まで話したことも無かったのに、もっと話したいと思った。
もっと海馬のことを知りたい。
授業に身が入らないまま、一日が終わった。
私はぼーっとしながら帰りの終礼を聞いていた。
生徒がぞろぞろと教室から消えていく。
家に帰る人、部活動にいく人、別クラスの友人に会いに行く人など、様々だ。
そのなかに混じる気にはなれず、私はずっと放心状態。
足音。
運動場から聞こえる運動部の掛け声。
生徒の笑い声や話し声。
全てが遠く聞こえる。
突然、携帯電話が鳴った。
急に現実に引き戻された。
母から電話が来たとき専用に設定した着信メロディだ。
マナーモードにするのを忘れていたらしい。
授業中に鳴らなくて良かった。
「もしもし」
「名前ー? 母さんよー」
「知ってるよ」
のんびりとした母の声を聞いたら安心した。
「悪いんだけど帰りに卵買ってきてねー」
一方的に話され、そのまま電話を切られた。
まだ返事もしていないのに。
苦笑いしながら、私は帰る準備を始めた。
鞄をあけ、ノートや教科書をしまい始める。
ふと、違和感がした。
心がざわつく。
妙な焦燥感。
心臓が早鐘を打っている。
そんなはず、ない。
ありえない。
何かの間違いだと思いたい。
どうして。
足が震えた。
私のデッキが、無い。
何度も何度も鞄の中を引っ掻き回した。
机の中、ロッカーはもちろん、理科室や音楽室。
今日移動した場所全てを探した。
そもそも鞄から出していないのだ。
授業で部屋を変えたのは理科だけ。掃除に行った音楽室には手ぶらで行った。
なくなるはずがない。
「うそっ…」
鼻の奥がつんとした。
目頭が熱くなる。
「うそだ…」
今まで一緒に戦ってきた大切なデッキ。
特別珍しいカードは無いが、この世に一つしかないかけがえのない宝物。
私が鞄をひっくり返した。
教科書や筆箱が音を立てて床に散らばる。
涙があふれてきた。
筆箱からさらに飛び出した筆記用具。
私はその場に座り込んで、狂ったように、床に散らばった鉛筆たちを掻き回した。
涙が止まらない。
+
次の日も、私は早朝に登校した。
何か期待していたわけではない、じっとしていられなかったのだ。
昨日の夜はなかなか眠れなかった。
睡魔が降りてこないのだ。
心の全てが喪失感に支配されていた。
このぽっかりとあいた穴にあてがう物なんて、あるだろうか。
どんなに泣いても朝は来る。
眠りについたのが深夜過ぎだったというのに、6時に目が覚めた。
浅い眠りだったのだろうか。
少しも疲れが取れていない。
足を引きずりながら、教室へ向かった。
戸を開けると、今日はすでに他の生徒が一人いた。
海馬だ。
席についてノートパソコンに何かうちこんでいる。
よほど集中しているのか、私には気づいていないようだった。
昨日あれほど話したいと思った海馬だったのに、今はどんな顔をすればいいかわからない。
ともに考えてくれたデッキ。
失くしたなんて言えるはずが無い。
「海馬くん、おはよう」
「ふん、名前か」
喉が萎縮したが、なんとかあいさつだけし、席についた。
海馬の席は私の3つ右だ。案外近い。
頭の中がぐるぐるする。
海馬。デッキ。アドバイス。楽しかった。デッキ。もう無い、デッキ。
また泣いてしまうと思い、ぎゅっと唇を噛んだ。
「今日はカードを見ないのか」
「ひゃあ!」
「またその奇声か」
ノートパソコンを閉じる音がした。
海馬が席を立ち、今日も私の前の席に座る。
私たちしかいないから、一つ一つの物音がとてもよく聞こえた。
それが余計に私を緊張させる。
「…ひどい顔だな。 寝てないのか」
返事ができなかった。
沈黙が続いた。
昨日はなんとも思わなかったのに、気まずかった。
私は下を向いているしかできなかった。
どれくらいの間、そうしていただろう。
海馬は自分の席に戻り、パソコンを開いた。
教室の中で、キーボードをうつ音だけが響いた。
早く、他の生徒たちが来てほしい。
昨日とは逆のことを祈った。
+
放課後、下駄箱を開けると上履きの上に白い封筒があった。
不審に思いながら、手紙を読む。
大変バランスの良いデッキを見つけました。
決闘者であれば、喉から手が出るほど欲しいですよね。
僕は親切なので、あなたに招待状を送ります。
第1理科室で行うゲーム。
これに勝利した者に、このデッキを差し上げます。
私は手紙を破り捨てた。
腸が煮えくり返っている。
怒りに身を任せ、理科室まで走った。
+
第1理科室。
大急ぎでかけこむと、笑い声がした。
「そんなに急がなくても、大丈夫ですよ」
ひょろっとした色白の男子生徒だった。
口元は笑っているが、長い黒の前髪から覗く細い瞳は笑っていない。
背筋がぞっとしたが、私の怒りはさらに燃え上がった。
「私のデッキはどこ!?」
「あなたのデッキではありませんよ。 僕のものだ」
男子生徒はニコニコ笑いながら鞄の中からデッキケースを取り出した。
オレンジのデッキケース。間違いない、私のものだ。
「それ、私のデッキじゃない!」
「いやあ、それにしても驚いたなあ。 名前さんが決闘者だなんて」
「いいから返して!」
「おかしなこと言わないでください。 僕が手にしているのだから、僕のデッキだ」
「ふざけないでよ!」
「まあまあ、落ち着いて。 これがあなたの物になる場合もある」
「はあ?」
「名前さんは、かわいいなあ」
男子生徒は笑いながら、トランプを切り始めた。
相変わらず口元だけで笑っている。
「名前さんには赤が似合いそうだから、ハートとダイヤにしよう」
「何の話?」
「ゲームをするんです。 勝ったら僕のデッキをあげても良いですよ」
「もともと私のデッキじゃない!」
男子生徒はけらけらと笑った。
「やめてくださいよ。 もしもあなたの鞄から抜き取ったとしても、今は僕のものだ」
「やっぱり…私のデッキ返してよ」
「いやいや、だからもしもの話ですよ。 それに勝てばいいんだから」
「私のものなんだからゲームなんかする必要ないでしょ!」
「僕のデッキを自分のものだと言い張る卑怯者は、ゲームでは勝てないでしょうねえ」
「はあ!?」
この男はわざと私の神経を逆なでしている。
ここで熱くなったら、あいつの思う壺だ。
私は怒りをおさえつけながら思案した。
どうすれば、取り返せるだろう。
なんとか怒りを静めようとしたが、
「これ、あの海馬瀬人が僕のために組んでくれたデッキなんだよ」
その一言で、私の理性は吹き飛んだ。
「うけてやろうじゃないそのゲーム! あんたのこと、許さない」
「怖い怖い。 愛の力かな」
ゲームのルールはシンプルなものだ。
ハートとダイヤのトランプがそれぞれ1〜12枚まである。
合計24枚。
このトランプを互いに1枚から3枚までめくっていく。
最後の1枚を引いたほうが負け。
「名前さんからひいていいよ」
私がまず1枚引き、男子生徒が3枚引いた。
次に2枚引き、あいつも同じく2枚。
「名前さんと同じ枚数を引くと気分が良いね!」
などとふざけたこと言っていた。
負けるわけには行かない。
トランプが少なくなっていく内に私は不安になっていった。
何か、いやな予感がする。
そもそもこいつは、なぜこんなゲームを仕掛けた?
夏でもないのに、汗が流れた。
「さあ名前さんの番だよ」
残りのトランプは5枚。
私は泣きそうだった。
この勝負、私の負けだ。
「降参しても良いんだよ」
「…しないよ」
私はカードを3枚ひいた。そしてあいつは予想通り1枚引く。
そして、残ったのは1枚。
5枚残った時点で私の負けだ。
私が引いた数と足して4になるようにしてひけば残りは絶対1枚になる。
わかっていたが、決闘者として降参だけはしたくなかった。
「せっかくチャンスをあげたのに、僕の勝ちだねえ」
もう言い返す気力も無かった。
己の無力さを悔いた。
「もうすぐ地区大会があるし、さっそくこのデッキでエントリーだな!
僕のものなんだから、盗んだなんて騒がないでよね」
悔しかった。
ただ悔しかった。
私は言い返すこともできずに、男子生徒に背を向けた。
こいつの前だけでは、泣きたくない。
涙をこらえ、笑い声を背に受けながら、理科室から出ようとした。
戸を開けようと手をかけたときだ。
「ひゃあっ!」
「…3回目の奇声だな」
「か、海馬くん…なんでここに」
目の前の戸が開き、海馬が押し入ってきた。
眉間に跡が残りそうなほど、しわを寄せている。
「貴様はそこで見ていろ」
予想外の海馬の来訪に、涙の気配はうせてしまった。
海馬に促されるまま、私は頷いて椅子に座った。
「あれ、海馬くんじゃないか」
男子生徒は海馬を見てもへらへら笑っていた。
「おもしろそうなゲームをしていたようだな」
「何で知ってるのかな?」
「貴様のようなうじ虫に教える必要は無い」
「あはは! それで、何の用かな?」
海馬は不敵な笑みを浮かべた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「ゲームを、しよう」
男子生徒はそれを聞いてさらに笑った。
いちいち癪に障る笑い方をする。
「名前と同じルールで、俺が勝てばそのデッキ、返してもらおう」
「へえ、じゃあ、僕が勝ったら?」
男子生徒の前髪から覗く瞳が、初めて笑った。
「俺の持つカード、全てくれてやる」
海馬はさらりと言った。
簡単に言ってのけたが、その言葉の意味は軽いものではない。
「その言葉、忘れないでよね」
男子生徒はにやにやと笑った。
欲望にまみれた人間の顔だ。
男子生徒は海馬に淡々とルールの説明をした。
「なるほどな」そうつぶやいた海馬は無表情だった。
「さあ、きみからどうぞ」
ゲームが始まった。
カードの貴公子と呼ばれる海馬相手に、男子生徒は余裕の笑みを浮かべている。
その自身はどこからくるのだろう。
一つの可能性が浮かび上がった。
イカサマ。
「海馬くん、だめ、この勝負は!」
「名前、黙っていろ。 俺が負けるはずが無い」
あわててとめに入るが、冷たい声が返ってきた。
温度が感じられないのに、怒りを含んだような声。
「いいか、名前、俺は負けない。絶対にだ」
自信に満ちた声だった。
その言葉に全て納得した。
理屈ではない。
「では、2枚ひくとしよう」
海馬の長い指がトランプに触れる。
「3枚だな」
「2枚」
海馬の淡々とした声と、男子生徒の笑い声が続いた。
トランプはみるみるうちに減っていく。
残り半分以下になったところで、男子生徒の表情が変わった。
「どういうことだい?」
はりつけたような笑顔が、初めて剥がれ落ちた。
男子生徒は不審そうな顔をしている。
それを海馬が愉快そうに見ていた。
「どうした。続きを引くがいい」
「お前、まさか、はめたな!?」
「ゲスが、わめくな」
「残り9枚って、おかしいぞ!」
男子生徒が声を荒げた。
海馬が喉の奥で笑う。
いつの間にか笑う立場が逆になっていた。
「残り9枚のはずが無い!」
「実際9枚だろう」
「そんなはずない!」
私には、何故男子生徒が怒っているのかわからなかった。
彼は拳をぶるぶるとふるわせている。
「イカサマだ!」
「ふん、貴様がそれを言うのか」
「なんだと!」
海馬がふいに振り向いた。
「名前、こいつの勝負はイカサマだ」
「え?」
「まず、こいつは何故24枚だと言ったと思う?」
「ルールだから?」
「いや、こいつはそんな親切なやつではない。
なぜわざわざ枚数を教えてやる必要があったのか。
答えは簡単だ。枚数を偽ったのだ。実際は25枚」
男子生徒をちらりと盗み見た。
彼はうろたえていた。
目が泳いでいる。
「そしてなぜ、相手を先攻にしたと思う」
「うーん…」
「では、どうすればこのゲームは勝ちになる」
「最後に引いたほうが負けだよね」
「そうだ。最後に1枚残せば、相手はそれを引くしかない。
25から1をひいて、4で割ってみろ」
24÷4は6である。
「もしかして…」
「そうだ相手が引いた分と足して4になるようにしていけば、最後に必ず1残る」
自分が負けたときを思い出した。
男子生徒は、私が1枚引けば3枚、2枚引けば2枚1枚引けば3枚引いていた。
つねに合計数が4。
最終的にどうなるか。
最後に1枚、私の番に残るのだ。
「さて、話がそれたな。続きを引け」
「だから、9枚になるはずが無い! お前、ひいた枚数を偽ったな!」
「ふん、戦略だ」
海馬はルールを聞いた時点でイカサマだと気づいていたのだろう。
わざわざ声に出してひいた枚数を宣言していたのはそのためだったのだ。
「戦略だと! 反則だ!」
男子生徒はまだわめいていた。
「いいから続けろ」
「くっ…」
男子生徒は顔をゆがめながら、トランプを1枚引いた。
海馬が3枚引き、残り5枚。
男子生徒が2枚引き、海馬も2枚引く。残り1枚。
男子生徒の番だ。
目の前に残された1枚のトランプを、男子生徒はうつろな表情で眺めていた。
「どうした、早くひけ」
「…」
「名前は負けでも引いたぞ。 それに比べて貴様は屑だな」
もはや無抵抗だった。
トランプを見ながらブツブツと呟く男子生徒の手から、海馬は私のデッキを奪った。
「貴様のような人間の屑が触っていいものではない」
そう吐き捨てて。
「名前、ここをでるぞ」
腕をつかまれ、私は無理やり理科室から連れ出された。
そして、戻ってきたのは私たちの教室。
「海馬君、本当に、ありがとう」
「あのようなゴミにM&Wをけがされるのは怖気が走るからな。それだけだ」
まっすぐと見つめて感謝の言葉を伝えると、海馬はそっぽを向いた。
「そうだとしても、ありがとう」
「ふん、しつこいわ!」
海馬は何故か怒りながらデッキをつきだしてきた。
私のデッキ。
嬉しくて、涙が出そうだった。
目を伏せ、滲んだ視界に妙なものが映った。
海馬の制服のポケットから、白い便箋が覗いている。
「海馬くん、その紙ってもしか」
「黙れ!これはただのノートの切れ端だ!」
「え、なんでノートの切れ端なんか…」
思わず笑ってしまった。
海馬はバツの悪そうな顔をしている。
「隙あり!」
海馬のズボンのポケットから、白い便箋(本人曰くノートの切れ端)を抜き取った。
それはどう見ても、私が受け取ったあの手紙だった。
「海馬くん、これを見て、来てくれたの?」
私は信じられないものを見た。
さきほどのゲームの時の冷静な顔とは正反対の、真っ赤な顔をした海馬くん。
それを見て、私の顔まで熱くなってしまった。
「俺は、その、なんだ…」
海馬にしては、珍しく歯切れの悪い言葉。
顔が熱くなってきただけじゃなく、心臓の音まで大きくなってきた。
私、どうしちゃったんだろう。
「いいか、名前! お前は黙って俺について来い!」
「え? どっか行くの?」
海馬は赤い顔で叫んだ。
「違う! 一生だ!」
END
10/02/22
『雨降りはうりんぐ』の/子様宅で5000HIT企画にリクエストさせて頂きました。
「精一杯かっこいい海馬」という漠然すぎるリクエストをしたにも関わらず、こんなに男前な社長を書いて下さいました。社長にデッキ調整してもらったり、華麗に救ってもらったり、いいこと尽くめです!
そして最後の社長のデレは最高のプレゼントだと思います…!本当にありがとうございました。
10/03/01 うろ