「いってきまーす」



ファイが家の玄関のドアに手をかける。その声に反応して、エプロン姿のサクラがパタパタと駆けてきた。なにか、用でもあるのだろうか。



「ファイさん、今日もお買い物ですか?」

「ううん。お魚の様子見に行きたいんだー。昨日いなかったから」



ファイは笑顔で答えるが、サクラは不思議そうな顔をしたままだった。



「…凄く……大切なんですね。そのお魚さんのこと」



どこか、いつものサクラと違う気がする。サクラの表情には、笑顔も明るさも無く、どこか曇っているように見えた。



「…どうしたの?」

「いえ…… なんでもないです!引き止めてゴメンなさい。いってらっしゃい!」



急に笑顔に戻って、サクラは早口にそう言った。ファイはまだ納得のいかない顔だったが、「いってきます」と告げて、家を出た。
扉を閉め、少し歩いてから振り返る。サクラの表情。笑顔は作り笑いだった。自分がそうしているから、他人のそれにも敏感になってしまうのだろうか。
いや、そんなことより。どうしてそんな表情をする必要が?



「サクラちゃん……何かあったのかなぁ?」

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