空はさっきまでの雨など嘘だったかのように晴れ渡っていた。空には虹が出て、生い茂る葉には雨粒の宝石。蜘蛛の巣についた雨滴が、光を反射して目に飛び込んでくる。
憂鬱な雨の後の、眩しいほど輝いた景色。だがファイはそれを満喫する前に、確かめたいことがあった。少女を置いて、走り出す。



「あれー……?」



姿は見当たらなかった。餌付けした影響からか、ファイが近寄ると必ずといっていいほどその魚は姿を現すのに。影は無かった。



「さっきの雨でびっくりしちゃったのかなぁ…」

「お魚ですか?」



ひょこ、と。
少女が横から顔を出してきた。不思議そうな表情でファイの瞳を覗き込んでくる。それを見て、ファイは微笑みながら言った。



「とても綺麗な魚なんだよ。丁度君の服の色みたいな鱗で」

「私みたいな……」



少女が呟いた瞬間、不思議な違和感を感じたのはファイの気のせいだろうか。何かが歪みかけたような。一瞬の、ほんの些細な捻れ。



「あの……」



その僅かなについて捩れについて考えていると、少女が怪訝そうに話しかけてきた。ファイはすぐに笑顔を作って、「なに?」と聞き返す。



「あの、明日もココに来ますか?」

「え、うん」



予想もしていなかった質問。ファイが笑顔で肯定する。すると、少女の顔にも笑みが広がった。逆にファイが問い返す。



「君も良く此処に来るの?」

「あ、いえ…よく分かんなくて…」



『ワカラナイ』? 『気が向いたときに』という意味だろうか。どこか不思議な雰囲気を漂わせる少女だ。どこか、他の女の子とは違う気がする。しかし、ファイが『来る』といったときに見せた笑顔は本物の少女以外の何者でもなかった。ただの思い違いだろうか。



「あ、オレそろそろ帰らなきゃー」



岩陰に置いてきた買い物袋を見やる。そろそろ戻って仕度を始めないと夕飯に間に合わない。ゆっくりと近づき、その袋を取って、少女に再び挨拶をした。



「じゃーオレはここらへんで」

「あっあの名前っ!!」

「え?」



急に訊かれ、戸惑う。



「あの、お名前だけでも教えてくれませんか……?」

「ファイ・D・フローライト。ファイでいいよ。君の名前は?」

「あ、奈々…です」

「奈々ちゃん。綺麗な名前だね」



笑顔でそう言い残して、ファイは足早に去っていった。



「ファイ、さん……か」



少女の呟きは、雨上がりの澄んだ空気に溶けていった。

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