「ふー……」
思わず溜息をついていた。巨木の下で、ファイはハンカチを取り出す。だがそれも濡れていて、拭いてもあまり意味のなさそうに思えた。諦めて、ファイはハンカチを買い物袋の上にそっと被せる。
雨はまだ、降っていた。にわか雨にしては長いが、遠くの空が明るい。そろそろ雨雲も通り過ぎる頃だろう。それまで、ファイは木陰になっている岩に腰掛けた。ストン。
「キャッ!」
「え?」
突然、後ろから聞こえた声。驚いて、振り向く。そこにいたのは、ファイと同じように目を見開いて驚いている、少女の姿があった。美しい色のワンピースに身を包んでいたが、それも雨に濡れてびしょびしょだ。手を口元に当てて、おずおずと申し訳なさそうにしている。
「あの、すみません。いきなり大きい声出して…」
「大丈夫だよー。それより君こそびしょ濡れだけど大丈夫ですか?って、オレもびしょ濡れかー」
にこっと、人当たりのいい笑顔でファイは応える。ふと、思った。この少女の服……いや、この色。どこかで見たことがあるような気がする。
「あ、私は大丈夫です……あの、ここによく来るんですか?」
「オレ?オレはねぇ、この泉にいる魚を見に来てるんだ」
そういって、ファイは泉に方を見る。そういえば、あの魚は大丈夫だろうか。この雨。たとえば泉が溢れて流されたりはしないだろうか。雨が上がったら、見に行ってみようか。そんなことを思っていた。故に、気づかなかった。
「お魚……」
少女が、そう呟いていたことを。