Visibile ferita

 海の底に沈めた秘密




「ったく驚いたよ、起きたらあんたたちいなくなってるんだから。」
「心配かけちゃったね、ごめん。」
「無事でよかったよ。……あら? どうしたんだい、ロニ?」
「お、おい、ありゃあなんだ!?」
ナナリーの声にも笑顔を見せたルナは小首を傾げた。申し訳なさそうに眉を下げて微笑んだ彼に、ナナリーも安堵の表情を見せて笑う。
しかしここでナナリーは共に洞窟から出てきたロニが愕然と何かを見上げているのに気付いて声をかけた。声をかけられたロニは震える声で言葉を紡ぐ。


「……なにあれ。」
彼の声につられて視線の先を辿ると、空に何やら巨大な傘のような物体が浮いている。
色は真っ黒で禍々しく、如何にも悪役が好みそうな外観だ。以前どこかで見た、漆黒の巨大な剣を思い出させた。
色合いのせいでは決してない、禍々しい雰囲気の…魔剣といった言葉がふさわしい剣。
どこで見たのか思い出せない。一体どこで見たのか、改めて考えようとしたその時だった。

「え…!」
傘の柄の部分に似ている剣のような物が輝き始める。
驚いた表情を隠すこともできずに、間抜け面のままに見上げていると集約した光が放たれた。
光線のようなその光はドーム状の建物(が荒野の中に立っているのに今頃気づいたのだが)に向かって発射されたようで、ドームはそれを吸収している様子だ。
それを見て、一行は目を瞬かせるばかりだった。

「あれは……ダイクロフト!」
「……なんであれがあるんだよ…十八年前にスタンさんたちがぶっ壊したはずだろ!?」
ジューダスが声を上げた。視線を移せば、一同は酷く驚いた様子で空に浮かぶ傘を見つめている。
その表情は困惑と衝撃の入り混じった、なんとも言えない表情だった。


「じゃ、じゃあ…ここは過去なの!?」
「そんなはずない! だって時間を飛んだりはしなかったもの。過去へも、未来へも…」
ロニの声に反応したカイルが空色の目を見開いてリアラに向き直る。しかしリアラは首を振ってペンダントに手を添えた。

「だとすると……ここは現代ということか。」
「そ、そんなわけないだろうが! あれが浮いてるってことは……」
「さっきの光を見ただろう。」
リアラの声にジューダスがぽつりと呟く。彼の声にロニが過敏に反応した。
言い淀んだロニに傘を示したジューダスは、腰に手を当てて思案するかのように俯く。
彼はそのまま言葉を続けた。


「あれはレンズの光だ。ベルクラントのものじゃない。おそらくはあのドームになんらかのエネルギーを補給しているんだ。」
腕を組んで傘を見上げると、ジューダスは岩に凭れる。
仮面の向こうのアメジストは陽光を受けて煌めいた。


「ダイクロフトは過去二度歴史に登場しているが、そのどちらでも地上のエネルギー供給などはしたことがないはずだ。」
「まさか……」
ジューダスの言葉を聞いて、フィアはひとつだけ思い当たる節があった。
リアラと彼女が同じ存在であり、同種の力を持つのならばそれが可能だ。

「……」
近くの岩に寄りかかっていたルナも思案した様子を見せる。無言ではあったが、彼が悩んでいる様子なのが分かった。

「エルレイン……!?」
「えっ?」
しかしフィアがその名前を呟くよりも先に、リアラが同じ名前を口にした。思いもよらない名前が出てきたことで、カイルが目を丸くして首を傾げる。


「まさか……エルレインがあれを!?」
「おそらくはな。」
「おい、どういうことだよ。説明しろ、ジューダス!」
恐る恐る傘を見上げたリアラが胸元で手のひらを握り締める。不安げに落とされた彼女の言葉を肯定したジューダスが頷くと、焦った様子でロニが声を上げた。
煌めくアメジストを閉じて、ジューダスが静かに切り出す。
世界にまるで自分たちしか存在していないような錯覚を覚えて、フィアは寒気を感じた。


「間違いなくここは現代なんだ。ただし、エルレインの手によって都合よく造りかえられた……な。」

その言葉を聞いた途端、世界の色がなくなっていくような気がした。


(作り変えられた世界。じゃあ…俺のことを知っている人はもう、いないの…?/2013.04.27)

prev / next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -