Visibile ferita

 アクアマリンの面影



「声かけなくてよかったの?」
周囲を照らす光は時折壁に備え付けてある蝋燭のみ。漆黒の闇という言葉がふさわしい暗闇の中にぼんやりと浮かぶ影は金と銀──カイルとルナである。
隣を歩くルナにカイルが尋ねた。先程結晶から噴き出した高熱の水蒸気からフィアを守ったのが、ルナであるということをカイルは知っていたからだ。

カイル組はひとまず地下道内を探索していた。その途中、カイルが氷の結晶を見つけてルナを引きとめる。
止められたルナもあれは封印だろうと予想できたらしく、解除に取りかかろうかとした時、あらぬ方向から炎の槍が放たれた。そちらをカイルが見ればなんとジューダスとフィアの二人もいるではないか。
勢いよく晶術を発動したフィアをジューダスが慌てて止めようとしていたのがカイルには見えたが時既に遅し。

やばい。フィア、大火傷しちゃう。
仲間の危機に、短縮詠唱に入っているジューダス同様カイルも晶術で援護しようと晶力を集中する。
しかしその瞬間、カイルの隣にいたルナから冷気が翻った。
同時に水の膜と氷の槍が放たれ、フィアは救われたのである。

しかし彼らに声もかけずに、ルナは残りの封印を探そうとその場を去ったのだった。


「いいじゃない。ジューダスがフィアを助けたんだってことにしておけば。」
「えー、さっきのかっこよかったのに?」
「ふふ、ありがとう。」
ルナが微笑む。小さく紡がれた音をカイルの耳は確かに拾う。腕組みをしてうーんと唸りだしたカイルに、ルナが上品な笑いを零した。
そしてしゃがみ込み手に持っていた炭を暖炉に放ると、彼はカイルを手招きした。

「火をつけてほしいんだ。」
「任せて! …ていっ!」
カイルがソーサラーリングを暖炉に向けると、光線が放たれ暖炉の炭が燃えあがる。同時に暖炉が輝き始め、光の柱を作るとすぐに光は霧散した。
封印が解けたのを確認したルナは立ち上がると出口に向かった。その後をカイルが追いかける。途中ルナは振り返ってカイルを見やった。

「どうしたの?」
彼のその行動を不思議に思ったのか、カイルも足を止めると首を傾げてルナを見る。
好奇心旺盛なアクアマリンとどこまでも静かなサファイアがぶつかった。似て非なる二つの色。それは、例えるなら空と海のようだ。

「……似てる…な。」
「え? なにルナ? もう一回言って!」
アクアマリンを見たルナは目を細める。輝かしい空のように、アクアマリンが煌めいた。
きょとんと目を瞬かせて、カイルがまたもや首を傾げる。その姿はインコのような愛嬌があった。目の前のインコに心配をかけまいとしてか、ルナは微笑むと首を振る。優しい表情を崩さぬことなくルナは目を閉じた。
掴みどころのないルナの考えていることを単純一直線のカイルが理解できるはずもなく、間抜けだが憎めない表情を見せたままだ。

「…んーん。カイルは元気だなぁって思ったんだ。」
「まあね! 元気なのも俺の取り柄だから!」
上品な笑みを見せたルナはそのまま地下道を出ようと足を進める。目指すは封印の場所だ。
満足そうに胸を張ったカイルはルナを追い越して先に進んでいった。雪に足跡を残すのが楽しいのか、カイルは幼子のようにはしゃいでいる。向こうに見える赤毛に手を振っていた。彼女の隣にいるのはロニだろう。


「……本当に、似ているよ…。」
降り続いている雪の結晶を見た彼がそのサファイアを細めたことは、誰にも気付かれなかった。

(その空色は、確かに彼の色。/2012.09.17)

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